『ノーカントリー』 

●第80回アカデミー賞作品賞を含む最多4部門受賞

コーエン兄弟流の坦々としつつも、重く飽きることの無い不思議な演出、ストーリー展開。

●父親との会話こそがこの映画の本質なのだろうか?「この国は老いたものにはやさしくないのだ」(という感じだと思うが)、ストーリーのベースは単純な殺人なのだが、単純ではない、深いものを今のアメリカの病んだ部分をストーリーを一枚捲った裏から感じさせてしまう見事さがある。
原題の「No Country for Old Men」老いた男にこの国は無い・・・この国は老いた男に報いない・・・・ということか? 重く深い。

追記)映画の原作となった小説がコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』(邦題)・・・・・小説の方はもう少しストレートなようだ。そして小説の邦題は更にストレートだ。やはりそういうことなのだろう。この殺人の裏にある歪んだ国家ということなのだろう。

●ストーリーは言ってみればそれほど複雑でもなく、単純で理路整然としている、だが2時間の映像の密度は非常に濃い。そして、伝わってくるもの、これは非常に難しいテーマ。

コーエン兄弟の作品は「ファーゴ」も似たような感じだ、さして取り立てるほどのない平坦なストーリー、ごくごく普通の話しで大きな盛り上がりやインパクトもないのに・・・何故かじわじわと味が染みてくる。これがいわゆる計算された映像とストーリーテリングのマジックなのだろうか? 黙ってみていてもドンドンと作品に引きずり込まれ、注目せざるを得なくなる、目を離せなくなる。

●このコーエン兄弟の技法、テクニックを、歯痒いことだが自分の頭のなかで理解出来ていない。なぜこんな普通なら「つまらない」となるストーリーがこんなにも面白く(楽しいだとかfunという面白さではない)感じるのか。そのテクニックはどこにあるのか? 何故単純なストーリーがこんなに味わい深く面白くなるのか、自分で語れる程に理解したいと希求してしまう。ちょっとした本が出ているようだが、改めて読んでみようという気持ちになっている。映画の技術に関する他にはない秘密がコーエン兄弟にはあるといっても問題はないであろう。

●確かに、何故この作品がアカデミー賞の最優秀作品賞になったのか? とういう点に疑問の声も多い。これを選ぶのはやはり玄人好みの感覚であろう。キネマ旬報が毎年のベストテンで癖のある作品を選ぶのとはまた別である。自分も作品賞はもっと分かりやすく晴れ晴れと感動させてくれるような作品がイイと思っているのだが(そうではないのも確かに多い)、この作品が作品賞というのは・・・やはり異質である。

●兎に角、コーエン兄弟の作品は・・・単純でありながら、非常に難しい。そういったものが多い。何がこの兄弟の作品の良さなのか、それを知りたいと願い切望する。

●作品賞受賞と言っても公開劇場は驚くほど少ない。それはこの内容からすればなるほどであろう。

コーエン兄弟インタビュー:http://eiga.com/movie/53088/interview/

☆バビエル・バルデム インタビュー:http://www.cinematoday.jp/page/A0001694

トミー・リー・ジョーンズ インタビュー:http://pia-eigaseikatsu.jp/movie/interview/14/



★映画批評by Lacroix