『八月の濡れた砂』 (1971)

●当時としてはこのような映像が衝撃的だったのだろうか? 暴力、強姦、セックス、夏の海、ヨット・・・如何にもステレオタイブな組み合わせである。時代背景からこういった多少どぎつく、今まではあまり表立って描かれなかった事を映画として観客に見せれば、観客も、マスコミも食いつく。

だが、それだけである。

●話しがまるでなっていない、若者のひと夏の無軌道ぶりを捉えた?? それだけで映画になるわけがない。ストーリーはブツ切れ、どう考えても理解できない、無理なエピソードの挿入。この若者が何故そういう行動に出たのかなどということはまるで描かない。ただ、行動を写して繋いでいるだけ。

●母親の再婚相手に行きなりナイフを突きつける。その再婚相手がチンピラを雇って若者をボコボコにする・・・・・はあ、そうですか。

●ヨットにはさも平然とライフル銃を持込む。ヨットの内部をペンキで真っ赤に塗る。誘った姉妹を強姦する。かって強姦された経験のある妹はライフルで男達を撃とうとするが、なぜだか撃つことをやめ、ヨットの中にもどり、船体に向かってライフルを撃つ。

●このままヨットが浸水して沈没し、全員が死ぬというのなら少しは面白かったが、ヨットはそのまま沖合を走りつづけ、ヘリコプターから撮影されたヨットと海の映像で話しは終わる。・・・・・・・まったく話しになっていない。

●唯一の良さはテーマ曲である、石川セリの「八月の濡れた砂」か。これは名曲。映画以上に退廃的気怠さを今でも感じさせる。

●当時としてはこういう雰囲気があった、うんぬんということなのかもしれないが、それは懐古主義の雰囲気があったという事実認証という程度であり、映画としてはこれは成り立っていない。まあ、どうしょうもない作品でもその当時の時代の雰囲気にマッチしていれば多くの人に思い出だとか、郷愁を呼び起こす掛け買いの無い一作になることもあるだろう。(例えば”稲村ジェーン”とか)

●が、映画としてはこれはもうダメだねぇ。

●その後この監督は梶芽衣子主演の「修羅雪姫」など、名作も撮っているのだが、どうも、恨みや、反体制やら、ヤクザっぽいのというか、作品のテイストは同じようなものが多い。ヤクザ映画や、チンピラ映画、またはそれに類するようなものが好みであり、自分のお得意なのだろう。最近は監督ではなく、役者としてちょっとした映画に端役として出演しているようであるが。