『明日への遺言』

●冒頭の白黒の戦争映像をみただけで・・・涙が滲んできた。まだ映画が始まる前だというのに。こんな事が実際に、この日本で、自分たちの知らない、生まれる前の時代に本当に行われていたのだと思うだけで、悲しく、背筋が冷たくなるものを感じた。

●この『明日への遺言』という作品はきっちりと、真面目で真摯な本当に真っ直ぐな映画である。それは監督である小泉堯史の生き方、考え方、人間性がしっかりと反映された作品ということであろう。

藤田まことが果たして岡田中将の役に合っているだろうか? そんな風に思っていた気持ちは瞬時に吹き飛んだ。最高の配役、最高の演技であった。


スティーブ・マックイーンの息子がこの映画で戦勝国アメリカ側の検事として出演している話は、それほど大きくPRも告知もされていない。この作品に妙な色を付けない、正しい製作陣、スタッフの判断である。
●裁判で尋問される夫を静かに、そして強い信頼のまなざしで見つめる妻役の富司純子も素晴らしい演技だ。

●死刑判決を「本望である」と受入れる藤田まことは、まさに岡田中将が乗り移ったかのようである。

●これを書いていて、作品を思いだすだけでも、涙が滲む。

●正当な軍事裁判などない、これは戦勝国の報復裁判だ、国際法を破っていたのはどちらだ。事実をねじ曲げ、強制的な解釈をし、BC級戦犯数百人を死刑としたこと・・・・・憤ることは・・・・敢えて映画では触れられず、裁判の流れと、それぞれの主張を淡々と観客に見せつけていく、何の判断も映画は示さない・・・・だが、それが最も観客に判断を迫る。

●こういった戦争の作品であると、さまざまな恣意が交錯し、さまざまな立場、考えの人が誠意、偽善、作為、ごまかし、さまざまなことを言う。
だが、作品の姿が、その資質が、その在り方が、そんなものに動じることはない、気高さをもっている。

●この作品は素である。素であるがゆえに、気高く、強く、誇り高い。

●いつものように、あれこれと長々とここで作品について書く気が起きない、書くことが出来ない。

●この作品は孤高であり、この作品はこれ一つで高くそそり立ち、現代を見下ろしている。映画を論じる前に、ここに流れる歴史の事実、精神に・・・・敬服する。

●『明日への遺言』この日本映画は至高の一作である。

◎映画監督 小泉堯史に聞く(前編)http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/jidai/080228_koizumi1/index.html

◎映画監督 小泉堯史に聞く(後編)http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/jidai/080304_koizumi2/index.html

◎『明日への遺言』レポート http://ashitahenoyuigon.jp/news/report.html