『子猫の涙』

●上映前に流れていたテーマ曲がすごくイイ感じだなぁって思った。嫌いじゃないんだよねぇ、まだ幕が上がる前(って、今は幕が上がるような劇場はすくないけど)の劇場に静かに流れる音楽、そぞろに人が入ってきてちょっとずつ席が埋まっていく、そこで流れる音楽って響くんだよね。
RIE FUというアーティストは全くしらないけど、声の感じ、音楽のちょっと明るいけどちょっと寂しい感じ・・・・いいんじゃないこれ。

●上映がスタートする前に流れていた音楽でガーンと来たのは「誰も知らない」の挿入歌だったタテタカコの「宝石」だった。
ストーリーを知っていて映画をみたんだけれど、それ以上にタテタカコの声とその歌詞が心にガンガンと響いてきた。泣きそうになった。あれは劇場に流れていた音楽としてはもう一生ものくらいに心に残る歌だったな。・・・・・・・・話しが逸れたが。

●監督の森岡利行はこの映画の主人公であるメキシコオリンピック銅メダリスト森岡栄治の本当の甥っ子なんだね。自分伯父のこんな激しい人生を映画にしてしまうっていうのは・・・・凄いね。

●監督はこの映画のHPでCommentという形で栄治の娘である治子(映画の治子ではなく、実際の治子)に「身内の恥晒してごめんな」って書いている。ほんと、オリンピックの英雄なのにぶらぶらして、ヤクザの用心棒やって、女にはだらしなくて、証券偽造で捕まって、お兄さんは自殺して・・・ほんとこうやって文字にして並べると悲惨で、あまりにも酷い人生の話し、誰にも見せられないような話しなんだけど、でも甥っ子である監督はこんな最低クラスの人生を送っている自分の身内の話しを、ちょっと面白おかしく、そしてちょっと遠くから、かなり優しく見てるんだよね。
実際の登場人物はホントに壮絶なグシャグシャな生活を送っていたのかもしれない。でもこの映画からはそういった悲しさは悲惨さは感じられない。とてもとてもひどーい話しなのに・・・・ほんわり温かい。

●監督がそう意図したわけではないのだろうけど、いわゆる癒し系とこれをとる人もいるだろう。その位、なんだかふんわりしているんだな。

●監督は伯父である栄治という人を、愛してたんだろうね。

●監督は脚本家になろうと思ったとき、1番最初に栄ちゃんの事を書こうと思ったと言っている。たぶんずっと伯父のことが監督の心の中で大きな存在として生きていたんだろうね。

*HPにあるCommentは必見。監督の本当の思いが吐露されているから是非とも読むべき。

●映画としては時系列的にストーリーを進ませているだけで、大した驚きも、感動もなく、淡々と話しが進んでいくだけという感じだ。1時間半程の映画なのだけど、ちょっと長さを感じてしまったな。

●自分としてはこれはオリンピック銅メダリスト森岡栄治のストーリーというよりも、本当の甥っ子である監督:森岡利行がこんな自分の直ぐみじかのファミリーの事を描いた作品を撮った、そのの背景を含めたところになんというか、映画にはないもっと奥深いストーリーを感じるな。

●『子猫の涙』という映画の題はちょっと分かりにくい。子猫=治子なんだろうけど、ボクサーの森川栄治のことを扱っている映画として説明されているから『子猫の涙』という題がボクサーと繋がりにくい。内容としても子猫の涙を象徴して題を納得させるようなトピックはないなぁ。途中で出てくる捨て猫も直ぐに死んでしまうしね。敢えてちょっと甘めに考えれば、この映画全体を引っ張っている治子に焦点を当てた題なのかなぁ?とも思うのだけれど、やっぱりなぁ、この題はなんだか分かりにくいよね。作品の中身を全然想像させてくれないし。

●治子役の藤本七海がなんといっても映画の中心だなぁ。主役の栄治よりも格段に目立っている、ストーリーを引っ張っている。そういう意味でもこの映画はボクサー森岡栄治の映画ではなく、その子供、治子の映画、栄治を取り巻く人の映画なんだよね。(だらか子猫の涙でいいのか?いやぁ、それは遠回しすぎな当てつけだな)
*藤本は1年半前の撮影中は監督の膝にも乗るくらい小さな女の子だったのに、既に10センチも身長が伸びて、ちょっと大人の女優になったということだ。凄い成長の早さ・・・・。

広末涼子がまさかこんな役で出ているというのはなびっくりだなぁ。最初のキャバレーのシーンでは広末だって気が付かなかった。いやはや、広末もこんな汚れ役やるようになったんだねぇ。まあいつまでのにこにこカワイコチャン役ばかりでは先が無いだろうけれど、今回の裕子役の広末は驚き!バブルへgoの時にも書いたけど、広末もホントに歳とっておばさんになったなぁって感じで・・・・時間の流れを感じるなぁ。

●治子の成長した姿として宝生舞が出てきたときは画面が輝いた。宝生舞はもっともっと色んな作品にでて、もっともっとメジャーになっていい女優だとおもうのだけれどね・・・・なんだか浮上出来ないでいる感じが有る。でも葬儀のシーンで宝生舞いがでてきたら、一気に画面が引きしまった。顔や雰囲気に力のある女優なんだと思うんだけど。もっともっと頑張って欲しいね彼女には。

●キャスティングが合っているかどうかは別にしても、想像以上に豪華でピリッと香辛料の聞いたようなキャスティングがされてるよね。赤井英和にしても、それこそ広末にしても、宝生舞にしても・・・・・このキャスティングの組みあわせはちょっと驚きだなぁ。
武田真治は中学生から年老いて死ぬ間際までを演じているけど・・・・いくらなんでも中学生はなんだか変だったね。ガシガシに鍛え上げた肉体はすごかったね。ボクサーだっていう設定に違和感をださない。でも、演技はなぁ・・・なんかはまってないな。

●いつもの辛口ならバンバン批判するような部分がある映画なんだけどね。ま、監督のコメントを読んで、挿入歌を聞いていたら・・・ちょっと今回はあんまり批判する気持ちが萎えたな。

●こんな酷い生き方や全然ダメダメな人生をおくってる人たちなのだけど、親族ということもあり、監督が極めて優しい目でこの登場人物たちを優しく保護するように映画にしている。その部分はいいんだよね。酷い話しなのだけど優しい。そこに癒される人もいるだろう。