『いちばんきれいな水』 

●宣伝に使われているポスターやDVDのジャケなどに使われている、加藤ローサの眠っている場面の写真が良い。そして「いちばんきれいな水」というタイトルも非常に良い。この二つで何かをこの映画に期待してしまうくらい興味を持ってしまう。

●眠っている美少女、「いちばんきれい」という「水」・・・・これだけで、一体どんな映画なんだろうと興味を持つ。内容に感動的なもの、心を癒すもの・・・そんな期待を抱く。・・・・・・・だが、淡い期待は大きく外れた。

●映画の冒頭から10分程映像を見ていると、なんとなくその映画の質が見えてくることがある。カメラの構図、アングル、動き、カットなどが「うーん、絵に緊張感が無いな」とか、役者のセリフなどが「んー、なんかちょっとレベル低いな」と思えてしまうことがある。すると大方その雰囲気は映画全体に広がっていて、やっぱりダメだなぁと最後に溜息をついてしまうことになる。

●そう言った意味で、この映画は最初の数分で「これはだめなんじゃないか」と思えてしまう映画であった。

●演技、演出が非常につたなく感じる。ホントに演出をしていたのだろうか? 脚本の悪さもある。話しがだらだらとまだるっこしく、また南米で事故にあったという妹の話しはまるでとってつけたかのようなものだ。まるで夏美と愛を二人っきりにするために無理やり作った設定じゃないかと思えるお粗末さだ。

●11年間の眠りから覚めた愛には自分の置かれた立場、自分の知らなかった状況に対する驚きがないのだろうか? あるだろう。それなのに、眠りから覚めた愛はまるでそれが当然のことのようにさも自然に振る舞っている。ショーウィンドーに映る自分をみて驚くシーンはあるのだが、そんな程度ではないだろう・・・・そういったところにうそっぽさが漂う。

●脚本があまりに物事を深堀りしていない、起きたことの表面を水鳥の羽根でサラサラ撫でているかのような感じで、何も響いてこない。こんな凄いことが起きているのに・・・・なんなのだろうこのなんでも無さ加減は。

●練りきれていないまま勢いで撮影して、勢いで編集したというような作品と言えるだろう。

●この監督もPV出身で映画は初だという。・・・・・・・そういタイプは残念ながら皆同じようなダメさ、間違いをしている。類似したパターンで映画を失敗している。「ハチミツとクローバー」の監督も全く同じだ。

●愛役の加藤ローサが監督に「8歳という役作りをどうしたらいいのか」と質問したらしい。それに対して監督は「何も考えずにそのままいけばいいんじゃない?」と言ったという。・・・・・。まだ演技も演出も理解していない経験の少ない役者に「そのままいけば」では演技が成立しない。なにも分からない娘はそのまま行けばといっても、経験の少ない人生で知る、自分の頭の中で考えたイメージで動いてしまうのだ。それをなんら制御、コントールすることなく「そのままいけば」では、演出によって作品を作り上げていく映画そのものを無視しているといっても過言ではない。
なぜかPV出身の監督にはこういうことをする、言ってしまう類似が見られる。

加藤ローサはインタビューで「監督は雰囲気を大事にする方で、ここはこうしてああしてというようなことは言わないし、段取りを説明するようなこともありませんでしたので、本当に自由にやったという感じです。自然さが出ていたということであればそれは監督のおかげですね」と答えている。これでは全然ダメなのだ。加藤ローサの演技に自然さなど出ていない。あざとらしさ、わざとらしさ、演技になっていない動き。セリフは演技を学んでいない素人役者以下のおしゃべり状態なのだ。
そして、この加藤ローサと監督の会話は・・・「ハチクロ」での蒼井優と監督の会話にこれまた非常に酷似している。

●PV出身の監督は絵のイメージばかりに目をとられ、演出や演技ということが明らかにお粗末だ。あの迷作キャシャーンの監督も同じだった。

●製作会社としては製作費を押える一つの方法として安い監督を使うというのが常套手段だ。PVを撮っていた監督ならカメラの動かし方や構図だとかそういった基礎的なことは分かっている、だから映画もなんとか作れるだろう。しかも映画経験ゼロの知名度も低い人だから監督料は極めて安く叩くことが出来る・・・・・・だが、そういったPV出身の監督が初めて撮った映画は・・・・映画を分かっていない、映画のなんたるかを知らない、映画はどう在るべきかを知らない人が作ったただの動画でしかないというのが多い。

●水のシーンがキレイだったという感想を書いている人がいるが・・・・・そうだろうか? そうだとしてもそれは映画の本質にはほんの少ししか関わらない所だ・・・・・もっと中身をキチンとしてほしかった。

●途中よっぽど早送りしてしまおうかと苛々したが、我慢して最後まで見た・・・・・だが、これは辛かった。

●動員稼ぎのために加藤ローサを使っても・・・・これでは厳しい。