『虹の女神 Rainbow Song』 

●いい感じの映画だ。悪くはない。だが、余りに岩井テイストが入りすぎている。これでは岩井監督の代理をしたとしか言い様がない。熊澤監督の前作である「ニライカナイからの手紙」は本当に素晴らしい作品であった。「ニライカナイからの手紙」はオリジナリティーにあふれ、カメラアングルも特殊で、脚本もストーリーも演出も唯一無二の文句無さであった。だが、「虹の手紙」は余りに岩井テイストが入りすぎて監督のオリジナリティー、個性をすべて埋没させている。作品はなかなかの秀作である。だが、熊澤が監督をしていながら岩井作品をコピーさせられたと言ってしまえる。こんな作品を撮らせたのはプロデューサーの岩井監督の愚かさか?愚業か?自分が一人の監督であるならば、なぜにそのコピーをわざわざ師弟にさせる? 師弟が監督の技を盗むならわかる。だがこの作品では師匠が自分のやりたいことを弟子に強要したと言う感じだ。映画のありかた、監督のありかた、プロデューサーのありかた、全てが大問題ではないのか? 作品としてはそこそこイイ。だがこの作品の在り方、そこが非常に問題であり、すばらしい監督がこんなことをしたことが非常に残念だ。

●実はこの作品、全然知らなかった(汗)2006年10月の公開で、その頃はTVcmや劇場での予告編放映などもしていたはずなのに、全く知らなかった。そういえば去年の10月頃は忙しくて日本にも居なかったし、映画からもちょっと遠ざかっていたのだなと今思い出している。この映画は知人から勧められ「え、そんなのあった?」という感じでdvdを購入して見た作品である。幸いにして熊澤監督は少し前に見た「ニライカナイからの手紙」の素晴らしさに驚いたこともあり、最新作はどんなかんじだろうと大いに興味も持ったわけである。

上野樹里は個性が強すぎてどこに行っても役柄を上野樹里本人にしてしまうようなところがある。実際こういう強気なクラス委員長みたいな女の子はよくいるものだが。最初はその上野の個性の強さに「またか」と思った。この映画もまた上野に持っていかれてるのかな?と。だが、話が進むにつれて良くなっていったね。役を身に纏い始めたということだろう。

●岸田に思いも寄らぬ場所で冗談で「結婚しようか」と言われた時、あおいの表情が一遍し、バックで岸田を殴りながら「なんで、そんなこと言うんだ、どうしてくれるんだ、撤回しろぉ・・」とさけぶシーンは凄い。あおいの中にある相反する気持ちが画面からあふれ出さんがばかりに押し寄せてくる。これは名シーンだし上野樹里の演技も素晴らしい。このシーンには思いっきり驚き、そして胸が苦しくなった。

アメリカに旅立つことを岸田に告げたとき、あおいは岸田に止めてほしかった、側に居ろって言って欲しかった。安っぽいテレビドラマや恋愛映画で度々使われるシチュエーションだけど・・・・上野の気持ちを押し殺したような演技が非常にいい。この映画の中にある二つ目の名シーン。

●作品としては80点。いい作品だが、最初に書いたように熊澤監督の作品ではなく、岩井監督の作品になっている。そこが残念。熊澤監督には次回は誰かのコピーではなく、素晴らしいオリジナルな作品を撮ってもらいたい。