『沙羅双樹』  

●これは言って見れば日本版ドグマ95ということなのだろうか?

●安定しない映像のフレーム、もろに手持ちで撮影していると分かる長回しの追いかけ映像。ただし、自転車に乗っている二人を俯瞰するように撮影しているところを見るとかなり上から撮影していることになる。しかもかなりのスピードで自転車を追いかけの撮影。路地を駆ける子供を追いかける撮影も、かなり細かい動きをしたり、通常のレール撮影や台車撮影では追いかけきれないカメラの動きと狭い場所までの追従がされている。
●ステディーカムを使ったにしてはブレが大きすぎる。またステディーカムでこれだけのスピードで追いかけ機敏に動き回るのは困難だろう。ハンディータイプのミニトレーサーかそれに類似したカメラを安定させる小型の機械をつかって手持ちで追いかけながら撮影したのではないかと想像される。それなら自転車の二人を追いかけるシーンも同じく自転車に乗って後ろに立って撮影すれば出来るか? なんにしても思った以上の苦労をして撮影しているなとはわかる。長回しもこれだけ長くやっているのは世界中でも数少ないだろう。ただし、緻密に計算された長回しというより、役者(ここでは子供)を好き勝手に走らせてそれをずっと追いかけているという長回しなのでカメラワークの巧妙さは感じられない。そして、あまりに特徴的なやりかたでありすぎるためにどうしてもカメラを画面から感じてしまう。カメラで追いかけているということが分かってしまう。カメラが見るものに意識されてしまう。ここがどうにかすべきところであっただろう。

河瀬直美のデビュー作でありカンヌ映画祭で最年少の新人賞を受賞した『萌の朱雀』は妙にこころに絡み付く作品であった。最初の大樹が風に揺れるシーンからしてドンと胸を押されるような強さがあった。だが、ストーリーは非常に分かりにくく(難解というのではなく、脚本が自己中心的で観客に分かりやすくということなどまるで考えていないかのようだということ)スッと見ていても一体全体なんでこうなるの?あれ?どうして急にこんなふうに飛んじゃうの?という映画としてはダメな作りであった。しかし、全体を包む雰囲気、絵の美しさ、フィルムが捉えた空気。そう言ったものに他にはない特殊で心に残ってしまう何かを持っている映画であった。

●『沙羅双樹』も全く同じようなテイストの作品である。

●この監督は何故こんなに良く分からない話しの作りをするのか? 分からせようなどと考えていないのか? 明らかに類い稀な色と味わいを作りだせる監督なのだから脚本やストーリーにもう少し努力して欲しい。これでイイと監督が思っているのならそれはそれで仕方ないだろうが。

●バサラの踊りのシーンは、何故だろう目が釘付けにされる。不思議だ。もう一度みたいと思わされる。

●妊婦役の母親が監督自身とは途中まで気が付かなかった。出っ張ったお腹はいかにも何かボールでも入れていると分かる粗末な作りで幻滅する。だが、河瀬自信が行うこの母親役も特に演技が上手いとか下手とかではないのだが妙に気になる部分がある。

●まあ、そういった色々な良いところ、特徴的なところがもっと上手く融合すれば誰しもが認める良い作品がうみだされるのだろう・・・・けど。

●今年のカンヌ映画祭に再び河瀬監督として作品をエントリーしているようだ。・・・・さてどうなるか?またしても同じテイストか?

●それでもこの作品は・・・・・暫くしたらまた見てみたい一つである。