『それでもボクはやってない』

●「シコふんじゃった」「shall we ダンス」の周防監督の久し振りの作品。次はどんな作品だすのかな?と心待ちにしていたらなんと電車内痴漢のお話という。んんんんん・・・・と思ったが、周防監督も年をとって円熟してきて、こういう社会性の高い作品を取りたくなったのであろう。
●最初から非常にムカ付く気分になる映画である。それは映画にではなく、実際にこうゆう現実があるのだなと感じられるからムカ付くのである。
周防監督の作品にいつも出ているお決まりの役者達はほとんどいい人の役が多いのだが、同じ人がこの映画では腹立たしいくらい憎たらし役をしている。これが周防組の役者の演技であり演出の巧さと言えるであろう。

●兎に角よくぞここまで刑務所や看守、囚人、輸送車、裁判所などの状況を調べたものだと驚いてしまう。観客は今まで知ることの出来なかった日本の警察や刑務所、そして犯罪人の扱いなどをあたかも現実を見ているかのように体験してしまうことになる。そして裁判制度の矛盾。もし自分が何らかの状況でこんなふうに無実の罪を被せられ、裁判で戦わなければならなくなったなら・・・・・本当に無実だとしても裁判で勝てるのか? こんな風にして冤罪でありながらも犯罪者として作られてしまうのか、そう思うも身の毛もよだつような恐怖感が沸いてくる。

●兎に角この映画は細部に渡って徹底的に日本の警察や裁判制度、その裏側までをも調べ上げている。嘘だろうとおもうくらいこんなことが実際におこなわれいるんだと分かると怒りと同時に恐怖心さえも沸いてくる。

●作品はその綿密な調査に裏付けされ、そこに妥協のない密度の高い演義と演出がギュウギュウに積み上げられ、非常に完成度が高い。余りに完成度が高いからこそ観ているほうがその完成度の高さに疲れてしまう位である。

●これはエンターテイメントの映画ではないが、観ていて全く詰まらなくなることはなく、最後まで生つばを飲んでストーリーを追いかけてしまう映画である。

●日本映画の歴史に残る一作となるであろう。