『犬神家の一族』 

●十年以上前の作品を再び同じ監督がリメイクする・・・いや、リメイクというより全く同じに再現する・・・只それだけの映画か?

●前作は角川映画の中でも代表作になっているし、サスペンスとしても重厚感があり見応えのある映画だったと記憶している。

●それに釣られて今回のリメイクははてさてどうなっているのだろう?と足を運んだわけだが、前作の完成度、面白さを覚えている人ならば今回の作品にもある程度以上の期待を持って観に行くことになるだろう。

●実際劇場は年齢層が非常に高かった。あの頃のあの作品をもう一度・・・そう言った層を引き込むことには大成功している。
犬神家の一族」と言えば角川映画の中でもナンバーワン位に知名度は高い作品だ!それをリメイクすればある程度以上の観客動員は見込める。
まぁ、そういった魂胆だったのであろう。「戦国自衛隊」のリメイクもこれまた同じ。

●「戦国自衛隊」は作品の質は別として、話しの筋を大胆に変更した点は面白かった。しかし「犬神家の一族」においては話しが全く同じ。
監督がそれを望んだのかもしれないが、なんで一昔前の作品を全く同じストーリーで役者だけ変えて作り直す必要があるのか? なんらかの新しいエッセンス、現代に適応した脚本の練り直しなどがあるのならば少しはわかるが・・・・全くもって同じ。

松嶋菜々子が出演しているというところで少しは若い層も引き込もうと思ったのだろうが・・・・松嶋菜々子の役は目立ちもせず、誰だって良かったんじゃないの?というレベル。石坂浩二が再び金田一役をやっているのは違和感はないが、今回はどうも冴えた探偵というイメージがまるでない。
ラストで皆に挨拶するのを避けて一人去っていく金田一に「なんと爽やかな人だ・・」(だっけ?)と刑事が言うセリフがあるのだが、前作の時はこのセリフが一陣の風のように作品の最後をそれこそ爽やかに締めてくれていた。それが今回は全く同じセリフを言っているのに「なにがさわやかなんだよ」と言いたくなるような感じであった。

●それは何より前作と全く同じストーリー展開をしているにも関わらず、金田一が謎を解く過程やそのひらめきなどが全く映画の中でぼやけてしまっているのだ。今回の作品では金田一が探偵として頭脳を働かせ、謎を解き明かすという雰囲気がまるでない!これで金田一が探偵なの?と言いたくなるほどだ。脚本の過程で余計なストーリーを厚くし、そもそも一番大事な金田一に関わる話しの部分には殆どなにも手をくわえられていないというのがその原因だろう。結果、リメイクで全く同じストーリーを踏襲しながらもオリジナルより面白みにも重厚感にも欠ける実に淡々としたなんでもないテレビドラマのような映画になってしまったということだ。

●宣伝においても真っ白のマスクを被ったスケキヨを前面に押しだしているが、HPではスケキヨをアニメチックにデフォルメしてスケキヨ君のブログやらで不気味な存在であるはずのスケキヨをさも女の子受けでも狙っているようなカワイイーキャラにしてしまっている。コンビニでは同じくスケキヨをデフォルメしてオチャメにしたマンガの絵葉書を無料配布などしていた・・・・。

●映画の本質、その中身を甚だしく逸脱するような宣伝、キャラクターを完全にひっくり返してしまうようなイメージを出した宣伝が映画そのものに貢献するはずがあるまい。宣伝部に入った女子社員とかが、自分たちが楽しくなるように宣伝のお仕事をしましょう的にこんなキャラのわい曲をしているとしか思えない。

●ということで、書くほどに腹立たしくなってくるのでこの辺でやめておくが、もっと真面目に映画を作れよ、もっと真面目に映画を売るための宣伝をしろよと怒鳴りたくなるような作品でした。

PS;富司純子の演技だけは凄かった。この映画のなかで他がダメチン役者ばかりだったせいか富司純子の鬼気迫る演技は目を見張るものがあった。
まあ、それだけかな、この映画を観て良かったなと思えることは。