『フラガール』

シネカノンがフラダンスの映画を作ると聞いたのはずいぶん前のことだったと思う。

●最近は海辺の我が町もフラとかのブーム(というか一部が無理やりやっている感じ)で、夏のお祭りやらなんやらでは駅前に舞台作ってハワイアンだフラだと踊ったりしている。フラの店なんてのも何軒か出来ている。そんなふうに身の回りでフラだその生き方だ、考え方だなんて言ってる人たちがいるとどうもなんだかねぇ、と斜に構えてみてしまう部分がある。テレビ神奈川でもフラカッパーというフラダンスをするカッパのアニメが出ていたなぁ。

●そんなかんなで最近のフラのブームに目をつけてまたしょうもない商業主義の日本映画を作るんじゃないのって思ってた。
それがだ、段々と映画の内容が知らされてくると・・・・それは福島の常磐ハワイアンセンター設立にまつわる話しで、上っ面のフラブームとかに乗った話しではなく、もっと深いストーリー性を持った映画だということが分かってきた。

それでがぜん興味が沸いてきた。

常磐ハワイアンセンターといえば子供の頃テレビのCMかなんかでその名前を聞いたことがあるという程度で、実際に行ったことはない。でもあの頃相当派手に宣伝してたんじゃないかな?名前だけは明確に記憶に残っているんだから。常磐ハワイアンセンターって今で言うリゾート、テーマパークの先駆けだったということなんだろう。でも凄いね、炭坑が閉山されるということで出来たアイディアが東北の田舎にハワイを作るというんだから。今ならお金もあり、余裕もある人がそういう場所を利用するのが当たり前だけど、数十年前にそういうところを利用する人って非常に少なかったんじゃないかと思う。でも思いきり東北にリゾートを作ってしまうって、時代を先取りどころか追い越したアイディアであり考え方だったんだろうと思う。

●映画の出来は素晴らしい。ラストに向かって途中途中でホロリと涙ぐんでしまうような場面もある。その中で特筆すべきは蒼井優が演じた紀美子役であろう。蒼井優はパッと見にはのっぺりとした顔立ちだし、派手さもないし、なんだか芋っぽい田舎の娘というイメージがする。それはそれでこの映画の炭鉱町の女の子という設定にぴったりである。だが蒼井優の凄いのは演じるシーンによってまるで別人のように顔が変わってしまうということだ。芋っぽい田舎娘がダンスの練習をするシーンではまるで大女優のように神々しいばかりに美しい女性に変貌する。派手なイイ女というのではなく日本的な本当に純粋な美しい女性にパッと変わってしまうのだ。一体この子はなんなのだろうと驚くほどである。この子を発掘した人は凄いなと思ってしまう。ただ見ただけでは派手さも輝きも感じないような芋っぽい女の子に、その内側にあるこれだけの輝きを見つけたんだから・・・脱帽である。

●自分の生き方を否定する母親の前で言葉を交わさず、目も合わすことなく、自分が信じる道であるフラのダンスを真摯に踊るシーンは息を飲むほどの美しさだ。蒼井優は今後どんなふうに育っていくのだろう、恐ろしいくらいに楽しみだ。

●この映画のPRは割と地味であった。タイヨウのうたのようにヤフーやレコードメーカー、TVと手を組んだ派手なPRは全く無かった。宣伝用のポスターも流行りのキャラ売りを全くせず、純然とフラを踊る女の子達のデザインで通していた。CDなどでは松雪が前面に出てきているが、映画そのものの宣伝ではこの映画の主役と言っていい蒼井優が全く使われていない。映画を見て初めて蒼井が出ているのを知ったくらいだ。まだ蒼井の知名度が低いと言う部分もあるが、そんなキャラ売りをせずフラガールという題に則った宣伝デザインをしたことはとても好感が持てる。まあそのお陰でこの後書くように映画の背景が持つ重さや暗さ、深刻さがまるで感じられず、映画を見た後の違和感が生まれてしまったのだと思うが。

●この映画に残念な点があるとすれば、まずは小百合の父親が炭坑の落盤事故で死んでしまうというくだり。少しでも落盤事故の様子や、土が崩れ落ちてくるシーン、そこから逃げ出そうとする山の男のシーンが入っていれば落盤事故の恐ろしさや緊張感が伝わったものを、映画では只のサイレンで事故を知らせ、そして炭坑から運びだされてくる怪我人のシーンに繋いでいる。そのためこの大事な話しがどうにも緊迫感とか悲しさ、怖さをもって伝わってこなくなってしまった。

●また、この映画は「フラガール」という題からして、フラを踊る炭坑の少女達の物語が話しの中心であろうはずなのだが、石油という新しいエネルギーに取って代わられ、職は解雇され、どんどんと廃れていく炭坑の町とそこに暮らす人々のイメージが余りに強烈すぎるのだろう。そこからのし上がろうとするハワイアンセンター設立の話しや、フラを踊る炭坑の少女達の話しがどうも背景の強さに惜し消され薄くなっているような気がする。

●SKDから流れてきたダンスの教師である平山まどかの話し、夢を諦めて父親とともに旭川に移っていった友達の話し、紀美子の家族の話、組合いの話し、いろいろなストーリーがてんこ盛りにこの映画には入っている。だからこそ、最後にハワイアンセンターのオープンと晴れの舞台でフラを踊る少女達の姿が薄れてしまっている。ラストは沢山の拍手のなかで踊り、嬉しさに涙を流す紀美子の姿で映画は幕を閉じるが・・・・見終わってから、果たしてこの映画は何を訴えようとしていたのか?そこが非常に曖昧でハッキリしないものになってしまっているように感じた。

●炭坑の町のひしひしと伝わる厳しさが、フラガールというサクセスストーリーの輝きに重いベールを掛けてしまっているような感じがする。選んだテーマとその背景が余りにギャップが大きすぎるということなのだろう。とてもイイ映画なのだけど、消化しきれないようなもどかしさが残る部分がとても残念でもある。

フラガール特集ページ:http://www.hawaiians.co.jp/guide/hulagirl/
フラガール公式ブログ:http://blog.excite.co.jp/hula-girl/
フラガールを応援する会:http://www.iwaki-fc.jp/hulagirl/