『日本沈没』

樋口真嗣が劇場作品として初監督した『ローレライ』は監督第1作としてはまずまずの出来だった。

ガメラシリーズであれだけオタクっぽく特撮のレベルを持ち上げた樋口真嗣が『ローレライ』で劇場映画初監督をするということで凄い期待したし、特技監督というところに止まっていた樋口真嗣がついにようやく本格的に監督として劇場公開作に名乗りを上げたということでも大期待、樋口監督よくぞここまで頑張ってきましたねというかんじで応援したい気持ちも沢山あった。

●その『ローレライ』は突っ込みどころはあるけれど、割と良くまとまっていたし、これまでの日本映画に無いテイストもあり、劇場監督第1作目としては充分以上の評価が出来る作品だった。

●おしむらくは、やはり予算の問題であろうけど、樋口監督の一番の得意技である特撮の部分、CGの部分が自分たちが常日ごろ見ているハリウッド大作の映像から比べると数段落ちてしまうなぁと感じられるところ。充分に見応えある映像ではあったけど、やはりちょっと・・・・・ホントそこが「日本ではまだここまでなのかなぁ?」とちょっと残念に思える部分だった。

●その樋口監督2作目として『日本沈没』をやる!という話しを聞いたとき「おお、これは凄い事になるかもなぁ、樋口監督の本領発揮で凄い映画ができるかも、映像なんか超期待!」と色めき立った。
20年近く前作品のリメイクとはいえ、現代のCG技術で一体どういった驚きの映像を、そして感動のストーリーを見せてくれるのかと!!
●しかしながら・・・・・公開が近づくにつれてちょっとイヤーな雰囲気が漂ってきた。

●宣伝ポスターの余りの酷さ。いくら”キャラ売り”が全盛の映画宣伝とはいえ、なんなのだろうこのポスターのデザインは???
●草薙と柴咲の二人がアポーンとした顔ででかでかとポスターを2分している。その脇に日本沈没のロゴ。(;_;)
●このポスターを作った人のセンスを疑うしかない。一体このポスターで何を伝えようとしているの?この人気の二人が出てるから皆見に来てねってそう言いたいのだろうけれど?映画の事は文字でちょっと伝えてるけで、映画自体が全然伝わってこない。近年稀に見る最悪の劇場ポスターだと思う。キッパリ!

●例えば「ステップ・フォーワード・ワイフ」のポスターはニコール・キッドマンの顔だけしか出ていな。人さし指を口びるに寄せた絵だったと思ったが、あれが映画の中身を伝えているかといえばそのままでは何も伝えていない。しかし超有名で数々の映画で多彩なキャラクターを演じてきたニコール・キッドマンだから、このポスターを見た人はタイトルと絡めてなんとなく映画を想像する。マイノリティー・リポートやミッション・インポシブルのポスターはトムクルーズの顔しか出ていない。でもトムのカッコ良さと着ているもの、アクションのある絵柄によってこの映画がアクション物で面白そうとトムの絵だけでも想像できる。(トム・クルーズの事務所がポスターのデザインにトムの絵を大きく取り入れたもの以外はダメと制約を付けている割には良く出来ている。)

●その他にも現在のハリウッドの映画ポスターは登場人物を大きく扱ったり、登場人物がそこまで強い人気のあるキャラではない場合には絵の半分を映画の内容を示すような写真やイラストにし、上部に主要なキャラの写真を配するという手法が取られる。

●それに反して『日本沈没』は・・・・草薙と柴咲の二人から映画の中身をまるで想像出来ない。少なくとももう少し危機感の有る顔を使ったり、服ももう少し日本が沈没するような状況で戦っているというようなハードさを想像出来る格好にしたりとか、そういう象徴的なものをポスターの中にいれないことには、ただ役者を二人並べただけでは劇場宣伝用ポスターの意味がまるで無い。だからこそ、期待していた日本沈没のポスターがこんなものであったがために制作陣のマインドとかポリシーとかそう言ったものに疑問が湧き「これはちょっとやばいんじゃないの?日本沈没」と思うようになってしまったわけだ。

●案の定試写会を観た人の評判はボロボロ。もちろん良いって言ってる人もいたけれど、大多数が・・・・「こりゃ、ダメだね」という評価を出していた。映画というのは怖いものでそういう人づての評判や本やネットの批評で「見に行こうと思っていたけど止めとくかな?」「そんなに評判悪いならレンタルになってからでいいか」なんてことにすぐつながる。

●自分もそういう気持ちになりかけたけど、樋口監督の映画だ、自分の目で確かめよう!そう思って劇場に足を運んだ。

●映画は出だしから大地震で都市が崩壊するという単刀直入的なスタート。まぁ、だらだらやるよりは最初からディザスタームービーとして見せ所を持ってきたほうがいい。フーンと思ってみていると、子供が一人取り残され、それを草薙が見つけて助けに行くとうお決まりの、よくある嫌らしい手法のシーンが出てくる。(でもこの子供役は上手だね、とくに爆発が近くで起こり目を大きくひんむいてどうしたらいいかわからない・・・と呆然と立ちすくむシーンは絵として凄い!このシーンは予告編にも使われていたけど一瞬で見た人の心を鷲掴みにする迫力があるベストショットだと思う)

●そして監督お得意の大爆発のシーン、とてつも無い炎が燃え上がる・・・・んーガメラっぽいな、などと頭に思い浮かんだその瞬間、炎の中にヘリコプターがダダダダーン!!と急下降して現れる・・・・・おお!これもベストショットじゃない!ゾクッとするほど、カッコイイ!このシーンを指示した監督、このシーンを撮影したカメラマン、特撮スタッフ、CGスタッフ・・凄いじゃん、超気合い入ってるじゃん、やるなーとこんな短いワンシーンを観ながら色んな考えが頭の中を駆け巡る。

●そしてさらに、爆発の炎の中を飛行するヘリコプターから縄梯子が投下されその縄梯子の先には子供を救出すべくレンジャーが!そしてヘリコプターとともに爆発の中を掻い潜りレンジャーが颯爽と子供のいる場所に舞い降りる・・・・・・んー、カッコイイ!! 出だしからなんてベストショットを見せてくれるんだ!(まさか柴咲コウがこのシーンをやってるわけではないだろうけれど)

●邦画でも洋画でもこんなにカッコイイ、ベストショットはなかなか観たことはないぞ!すげぇじゃん樋口監督、頭ッからブルブルと痺れるような映像をみせてくれるじゃない!

●このシーンだけ観て単純にも自分は「んー、これは凄いベストなシーンだ、カッコ良すぎる位だ、樋口監督渾身のショットだ、この後の映像やストーリがどうであっても、このワンシーンを作り、見せてくれただけでこの映画全てもうOKだよ」って思いった。かなり甘いが・・・。

●しかし映画全体としてはやはり間延びした感じあり、草薙と柴咲の関係やらそのセリフや演技やらがなんとも溜息の漏れるようなもので、んーんーと頭を傾げる部分が多く、困ったもんだなぁという感じを受けた。

●首相を補佐し、最終的に日本を日本人を救う陣頭指揮をとる大地真央はなかなか良い!TVCMとかで歳を食ってるのにコケテッシュなことをやっているのは見たくもないのだが、今回の役柄は想像以上に嵌まっている。もともと美人だから若くはないけど美しさや可愛らしさとかが役を引き立てている。

●柴崎はイマイチ。「抱いて・・・」ってセリフも思わず笑いがこぼれてしまいそうなほど艶っけ無し。草薙が死を覚悟して潜水艇に乗り込むところにバイクで現れ、そして涙をこぼしながらバイクで走り去っていくシーンもなんじゃこの訳の分からない別れは・・・と言う感じ。

●20年前の大ヒット作をリメイクしたということからしてもCGを駆使した映像のレベルアップという以外に映画としてはどうもイマイチな感じで終わってしまっているというのが偽らざる印象。

●ラストで大地真央が沈没を免れた日本という国家と国民に対してスピーチする場面があるが、雰囲気的にはディープインパクトアメリカ大統領がスピーチする場面と酷似。でも今まで日本映画ってこういう国威高揚とかナショナリズム喚起的な事って右翼的にとられたりするから余り出してこなかったと思う。こういう思想とかを出すと直ぐに変なところが変なこと言って来たりする国だから。でも日本沈没はそういうことを考えなくても、自分の生まれた国が、日本人という人民が消滅してしまうというショッキングな内容で、ずっと見ているうちにさも今の現実とオーバーラップさせて、本当にこういう事態が今起きているんじゃないのって錯覚するような感覚があった。

●それは余りにもリアルに今の日本を再現してそこが崩壊する様を描いた監督の技量でも有るのだろうと思う。映画としては絶賛するということは出来ないけれど所々の印象的な場面や映像技術としての頑張りよう、これまでの日本映画とは異なるテイストや考え方などは評価できる。樋口監督第2作目としてはなんとかなったかなという感じだろうか?

ぴあ映画生活日本沈没』:http://pia-eigaseikatsu.jp/title/15674/
goo映画『日本沈没』:http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD9103/index.html