『初恋』 

●多くの人が知る迷宮入りの大事件「三億円事件」、そしてその犯人は女子高生だったという大胆な仮説。主役には今が旬とも言える女優 宮崎あおいを配し、映画として人を引きつける魅力はこれ以上ないという位の組合わせ。

●劇場での予告編もいい感じであった。白バイ警官がヘルメットを外すと長い髪がさらりと落ちて・・・・これはいい!期待したい。

三億円事件の犯人が女子高生という原作の大胆さは目を見張るものがある!これだけでも「そういうアイディアを思いつくのか!凄い!」と唸ってしまう。そして映画のタイトルが「初恋」である。一体どんな映画になっているんだ。

●そして主人公に配した女優が宮崎あおい。NHKやらナナやらと最近では多くの人の目に触れる作品に沢山出演している。まあ自分としては本当に少女だった時に出演した「EURIKA ユリイカ」で殆どセリフはないにも関わらず充分に魅力をアピールしたこと、そして前にも書いているけれど「ラヴァーズ・キス」での妹役がなんといってもよかった女優である。「ラヴァーズ・キス」の時の宮崎あおいは一番元気で、キラキラしていて、可愛らしく、しかも演技の確実さでベストではないかな?と思う。「NANA」の時は役柄もあるが、どうもあざとらしさが目に付いてしまった。

宮崎あおいを前面にフィーチャーした宣伝。劇場のポスターも宮崎あおい一人。そして「あの三億円事件の実行犯」「あなたとなら、時代を変えられると信じていた」というコピー!巧い。これだけで期待度がガーンと上がった。一体この素晴らしいアイディアがどう映画に昇華されているのかをキチンと見届けたいと思った。久し振りに大期待で劇場に足を運んだ。

●しかし、三億円事件を扱いつつ、犯人を女子高生にしつつ、タイトルを大胆にも「初恋」としつつ、宮崎あおいを使いつつも・・・・・・
話しの内容がまったく映画になっていなかった。

宮崎あおいの初恋も、非常に心に響くものではない。全然である。なぜ好きになったのか、そこまでの動機と流れがまったく上っ面をなでているだけ。

●当時の様子を再現しようと町並みや看板を再現しているけど、どうもあざとらしい。(この辺りは三丁目の夕日も同様)。頑張って当時の車を集めたのは凄い。きっとお金も沢山掛かっているでしょう。でも、なんだか全然古めかしさも、当時の匂いも感じられないのは何故?なんだか表面的な辻褄合わせをしているだけ、虚飾をしているだけに見える。

●当時の学生運動、機動隊との衝突もそこに時代が変わっていくようなエネルギーや不満、怒りもスクリーンからはまったく感じられない。

●主犯が国家組織の関係者というのも・・・・・響かない。

●前半に長々と説明する登場人物の境遇や設定も・・・・・説明的。こんな説明シーン長々とやってもそれが話しに深みを与えないのでは意味がない。

三億円事件の描写も・・・・あっさり・・・世紀の事件という衝撃度も、重厚さも、なにも感じられない。

●かといって「初恋」という題が示すような淡い、なにか胸を締めつけられるようなものも希薄。(多少は宮崎あおいだからなんとかなった)

●なにもかにもが上滑りして、なにもドスンと響いてこない。三億円事件という重さも、話しの重厚さも、恋の辛さも・・・薄い。

●久し振りにがっかりして劇場を出てきた。

●これだけの良い材料を映画として料理きれないのは・・・・ダメだねぇ。

●製作したりお金を出した会社にある程度の敬意と株を持たせるというのは分かるが、どうして日本映画は企画、製作というところに会社の社長の名前を乗せるのか? 最終的な製作のゴーサインは会社の社長や役員が決済するだろうけれど、映画自体の企画や製作に実質なにも関わっていないような人を最後にテロップで流したり、パンフに乗せたりしてるのは・・・・私的にはいつも「変な風習だ」と思っている。

『初恋』オフィシャルサイト:http://www.hatsu-koi.jp/
『初恋』宮崎あおいインタビュー:
http://movies.yahoo.co.jp/interview/200606/interview_20060605001.html
『初恋』小嶺麗奈インタビュー
http://www.hollywood-ch.com/report/interview_hatsukoi.html