『ダークナイト ライジング』(原題:DARK KNIGHT RISES) 


・映像の質は文句無し。クリストファー ノーランの撮る作品は細部までスキのない重厚で密度の高い映像ばかりだ。まるで超豪華なゴシック調の寺院や貴族の屋敷、宗教画と建設美に取り囲まれたヨーロッパ教会の中にでも居るかのような感覚である。

・今年期待の一作!前作『ダークナイト』(2009)の素晴らしい完成度、物語の質としての高さ、心臓を突き刺すような峻烈なストーリーにわれながら大喝采、大称賛をしたが、世界的にも驚くほどの高い評価を得た前作の続編ということで大いに期待は高まった。考えてみれば、このところ暫く、公開作に期待するなんてこともずっとなかったなと改めて思う。

・その高い期待からすれば、今回の続編は期待度に比して60%いや70%位の満足度だろうか。前作が非常に高いクオリティーだったのだがから、6割、7割の満足度といってもそんじょそこらの作品からしたら非常にハイレベルな映画ではある。だが、期待度がやはり高すぎただけに少しばかり「こんなものか」という気分になったことは事実だ。

・一人の監督が続けて傑作を撮るということは稀なる上にも稀だ。一人の監督が撮ることの出来る傑作は一本しかないと言う人もいた。そう考えれば、あの傑作である『ダークナイト』以上の作品が、いくらクリストファー ノーランと言えども、そんな続けて撮れるはずなどないのだ、脚本にしろあれほどのモノを、あれを超えるものを書くことはどれだけ難しいかと言うことでもある。

・そんな色々な思いを抱いて観た。見応えがあった。観ながら『ダークナイト』とは違うものも感じていた。

・凶悪でどんなものもその悪の力で踏み潰していくベインが、あの裏話をみせられたら、一気にそれまでの凶悪感がうすれてしまうではないか。あのどんでん返し的設定はいただけない。面白みはあるし、多少なりとも驚くのではあるが、それ以上にベインのキャラクターが一気に色褪せる、冷たくなってしまう。あれではベインというキャラクターを最後にダメにしてしまうようなものだ。

アメリカ政府を出してきたのもいただけない。そのアメリカ政府が手出しできないでただ見ているだけというのも、現実感から程遠い。前作「ダークナイト」でもジョーカーがどこにでもあまりに簡単に忍び込み悪さをするのだが、どう考えてもそれって無理だろうという現実感のまったく伴わない部分がいくつか露見していた。「Xファイル」で都会からいきなり南極に主人公がいっているとか、「復活の日」で日本から歩いて数日で主人公が南極にいっているとか・・・それと同じ類のミス。異常さ。脚本家も監督も映画に関わるすべてのスタッフもこういった不合理、不整合にどうして気が付かないのかと思うのだが、同じようなものが「ダークナイト ライジング」にもある。

その傾向は今回の「ダークナイト ライジング」においても多々ある。その辺の不整合さやどうみても嘘だろうとおもうようなところを抜けたらもっと怖さや恐ろしさも強くなっていたんだろうし、完成度も上がっていたのだろう。なんだか、ほんの数日で都会のどまんなかから南極まで歩いて移動しちゃってるというのを堂々と話の中に入れているようなそういう非現実さと同じものが、いくつかあって、それが映画の雰囲気を少しずつおかしくしていってしまう。

アン・ハサウェイがとにかく魅力的。もう本当にとろけてしまいそうなくらいイイ女。今までのキャット ウーマンのマスクはSMの女王様が黒いパンティーを逆さに被った様な品のないものばかりだったが、今回のキャット ウーマンは強い女性、気品、気高さといったものを感じせ、最高のキャット ウーマンになっている。それにしてもアン ハサウェイの美しさと危険さを合わせ持った女性は、スクリーンを観ているだけでうっとりと見とれてしまう。こんな女性が目の前に現れたら、殆どの男はもう目じりを下げてうっとりしてデレデレになってしまうだろう。実際に自分ももううっとり、こんな危ない美女と関わりたいなぁなどと夢想したが・・・。今までのアン・ハサウェイは目がちょっとアンバランスな程大きくて、確かにスーパーモデル的美しさではあったが、少しばかりエキセントリックな風貌に見えていてどうも好きにはなれなかった。しかしこの「ダークナイト ライジング」におけるセリーナ役は文句の付け所のない美人だ。エキセントリックに思えた部分すら強い魅力と誘惑の電波を放つ重要なパーツになっている。このキャスティングは見事だ。

・『ダークナイト』はアメコミをコミック的な部分からは全く離れた重厚な実写、人間ドラマに仕上がっていた。だが今回の『ダークナイト ライジング』は少しばかり現実ばなれして、いかにも空想SciFiの世界といったおかしな部分が多々ある。見ていてありえないようなマンガチックな話、設定などが引っ掛かった。なんだか映画が再びコミック、漫画的な世界にに戻った感もある。



[:W600]
・最後に近づくにつれ「これは、なんて救いようのない話なんだ」と思ったが、それが最後のワンシーンで救われた。サーッとカーテンが開いて爽やかな草原が目の前に広がるような、霧が一陣の風で吹き払われ夢のような美しく幸せな世界が目の前に現れるような、思わず拍手をしたくなる、体中にジーンと痺れるような感覚が走った。最高のラストだ。観た時は、よし、やった!とこのラストに酔いしれ心のなかのもやもやが吹き飛ばされ本当に心が救われる気持ちだったのだが、しばらくして思い出しながら考えると、あのシーンは・・・映画の中の現実なのか、それともアルフレッドの妄想、夢なのか・・・どちらとも受け取れるなと気がつく。あれがアルフレッドの夢なら・・・やっぱり悲しい、涙が出るほどこの映画は悲しい。でもあれが映画の中での現実ならば・・・本当に美しい、素晴らしい、見事な、心を暖かく癒されるようなラストだ。斜めから捉えたセリーナの後ろ姿と横顔、その幸せそうな姿、そしてそれを見て微笑むアルフレッドの姿・・・どちらにでも捉えられるラストだが・・・幸せな方として捉えよう。そうでなければ悲しすぎるし、幸せな姿と捉えれば、他には何もいらない何にも代え難いほど温かく、優しく、美しい、天国の中にいるようなラストなのだから。

[:W600:RIGHT]

・原題のDARK KNIGHT RAISESをなんでまあライジングとしたのか? 確かにエグザイルのヒット曲もあるしライジングのほうが日本人には耳慣れしているかもしれないが、まったく意思も思考もない邦題の付け方だ。

・シリーズ最終章とは言っているが、強欲なハリウッド スタジオがこんなドル箱、大ヒットシリーズを終わらせるはずなどなく。これはよくあることラストではいろいろと次への仕込みが・・・さあ3年後位にどうなるかな?

映画『ダークナイト ライジング』公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/batman3/
facebook page: https://www.facebook.com/thedarkknightrises?ref=ts&rf=411685442224057

◯ラストシーンに関するWeb上のあれこれ(ネタバレ)
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1291578677
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1291415697
http://zubazubanews.blog.so-net.ne.jp/2012-07-30-2
ダークナイト ライジング』の核描写, 米でも批判
http://www.webdice.jp/topics/detail/3609/