『バーバー吉野』(2003)

荻上直子の長編デビュー作・・・初の長編でこの堂々たる作り。やはりたいしたものだ。遠慮したり縮こまったりしていない。いや最初はしていたのかもしれないが「もういいや、やっちゃえ!」的に振り切ったのか?

・女の子を描くんじゃなくて、ガキンチョの男の子を描くというのがすごいな。皆んなでエロ本を見る場面だとか、女性監督なのによくこのそわそわしてちょっとあぶなっかしくて火遊びをしてるような気持ちがわかるなぁと感心。

荻上直子って子供の頃、こんながきんちょの男の子と一緒にその中に入って遊んでたんじゃないだろうか。そうでなきゃ、このエロ本を隠れて外で見るなんて気持ち分からないだろう。見たことはあったとしても、そういう描写を女性は描けないんじゃないかな? どこかで読んだとかちょっと見たとかじゃなくて、実体験として経験したものを映像で再現してるって思える。そうでないとこんな真に迫った(笑)ガキンチョのエロ本見たさの気持ちはわからんだろう。

・女性映画監督って、偏見もふくめて、どうもオヤヂっぽい。オヤヂの気持ちだとかまさにオヤヂ的な考え方、視点、経験を持ってるじゃないかと思う。そういう女性でありながらも男性的、そしてオヤヂ的なものを持っている、経験してきている女性が、映画監督になっている向いているのかもしれない。

西川美和にしても荻上直子にしても・・・やたらめったらオヤヂである。オヤヂ的である。爆!

・この映画はクスっと笑えるが、笑いながらもチクっとさされるというか、ヤバいなこれっていう毒があってけっこうどろっとしたものも含んでいる。子供を主として描いているけど、裏には毒やよどみもあるなぁ、子供独自の、大人になったから分かるような。

・お話は面白いけど、まあそこそこ。女性監督荻上直子の長編デビュー作ということを考えると、そうとうに凄い。この感覚が「かもめ食堂」や「めがね」のような女性に受ける映画に発展していったのではあるまい。この映画は荻上直子の原点かも。そういうことだと癒しだとかいった映画の代表的な監督ってことになっているけど、将来は本当はもっとどろ〜っとしたブラックジョークのすごい映画を撮るのではないかな?