『あの頃ペニーレインと』

●音楽モノ、ロック、グルーピーと並ぶとセックスやドラッグ、ベトベトの下半身趣味モロだしの俗な映画かと思ってしまうが、極めて真面目で正統で実直な映画。監督キャメロン・クロウの実体験と真面目な正確がとても良い意味で映画の中に青春の芳香漂わせている。

●今の時代じゃ「ロックは命だ」「ロックは人生だ」「ロックは哲学であり、精神だ」なんて言っても白い目でみられ、何をそんな熱いこと言ってたって売れなきゃどうにもならないさ。と、さもこの映画の中のローリング・ストーン誌の考えと同じことを言われそうだが、まだまだロックや音楽に夢や情熱を掛けていた時代の甘酸っぱい切なさがこの映画の中にはありありと残っている。

●つまらなそうだな、なんて思い、ずっと見ていなかったのだが、実に興味深く面白かった。大して山も驚きもない話の展開なのに、興味が途切れることがない。なんでもないような実に平凡な話の展開なのに、まったく退屈さや飽きといったものがない。脚本の巧さだなこれは。なんでもない話のように見えて、実はしっかり練り込まれている。不合理や破綻などが垣間見えることもない。なんでもないどこにでも転がっている、誰でも知っているような、だれでも経験しているような普通の話をこんなふうに面白く映画、脚本にすること、それが一番難しいのだろう。そしてこの映画はその難しさを見事に乗り越えている。

ケイト・ハドソンはのっぺりとした顏立ちで決して美人ではないのだが、目力と画面のなかでの存在感、オーラは強烈に発散している。母親がゴールディー・ホーンか・・・なるほどと納得。その後あまり良い役をもらってないようだが、すこし顏が特色有りすぎか。それでもこの映画の中のペニーレイン役はきっと生涯随一のはまり役ということになるだろう。ケイト・ハドソンがあってこそ、この映画の少し尖った部分に生き生きとした光彩が放たれているのだ。

●忘れてしまった、あの頃を思い出す、そんな青春映画。質実、実直で派手さはないけれど名作としての資質は備えている。