『機関車先生』(2004)

監督: 廣木隆一 『ヴァイブレータ』『きみの友だち』『余命1ヶ月の花嫁
原作: 伊集院静機関車先生

●いかにも文部省推薦、学校教育で使われそうな離島の小学校と先生、生徒の触れ合いを描いた作品だが、なんの前知識もなく、偶然に観てみたら、思いの他に良かった。

●何といっても、島の雰囲気、空気感がとてもいい感じに画面に出ている。潮風すら匂い漂ってくるような空気感の映像だ。沖縄物に近いかな、やはり島で上手に撮影するとこういう素敵な空気に包まれた映画ができ上がるのだ。

●海、漁船、漁港、島の田舎っぽい自然の雰囲気もとてもきれいに、美しく表現されている。観ていると、まるで夏の離島に渡って自分も生活しているかのような気持ちになる。

●子供たちの演技は巧くはないが変に擦れていない素直さと可愛らしさ、素のままの姿がとてもいい。子供たちの目のきれいさ、その輝き、純朴さ、ぜんぜん擦れていない、損なわれていない純朴な子供の本当のよさがたまらなく良い。

●子供たちにも大人の役者たちにも、わざとらしさ、あざとらしさ、いやらしさが全然見えない。画面にそういうものがまったく浮かんでいない。きっと監督、カメラ、脚本、その他の製作に関わったスタッフの皆が優しく、温かく幸せな気持ちでこの作品を作っていたのではないだろうか。画面を観ていてそう感じた。この映画に関わっている人達皆の優しく温かい気持ちがフィルムに感熱しているようだ。とてもいい、こういうふうに何も言わずとも画面から温かい優しさを感じる映画こそ癒しだなって思う。

●出来上がった映画には全部乗り移るのだ、スタッフの気持ちも、思いも、一人ひとりの心が、そんなことを黒澤明は言っていたけれど、この映画に関わった人達はきっと撮影期間ずっと幸せな気持ちだったのではないかとおもう。

倍賞美津子は最高の島のおばさん役だし、いつもは癖が出すぎる伊武雅刀もこの役はぴったしだ。島の飲み屋の大塚寧々は、まるで「Dr.コトー」みたいでもちょっとなんだが。

●島に代用教員で若い先生がやってきて、子供たちと触れ合い、好かれ、夏を過ごし、そして去って行く、ほんとうにそれだけの映画で、特に奇をてらったところもなく、ごくごく普通の単純なお話。だけどそれがまたいいのだ。これは言ってみれば現代版の『二十四の瞳』と呼んでもいい作品であろう。この単純素朴さ、なんでもなさ、そこに海の匂い、潮風の香り、夏の暑さ、夏の匂い、そういったものが重なり、純真な子供たちがそこで学校に通い、少しずつ心に思い出を積み重ねていく、それだけなのに、それだけだから、物凄くいい感じの映画になっている。

●何気なくながれているが、音楽もいい

●観終えたら「今年の夏は島に渡ってしばらくのんびりしたいな」なんて思った。

●めったにないことだけど、偶然に観てとても心に残った素敵な映画。

●エンディングの歌は伊集院静の作詩らしいが、曲がなんだかちょっとそれまでの映画の雰囲気に合ってっていない。