『八日目の蝉』(2011)

・出だしのかなりわざとらしい演出と、話を変にいじくり、入れ込みをした、演出の技巧をみせびらかせようとでもしているかのような部分に「これはダメだな」と思ったのだが・・・その後は見事。

・女優の演技がみんな凄い。どの女優も女の性とか女ゆえの業とか執念とか、女が女であるがゆえの、女としての生き物としての情念、情動が怖いくらい滲み出している。

井上真央・・・驚きの演技。なんだか単なる若手アイドルと思っていたが、この表情や背中に感じる影はどうだろう。こんな悲しさを滲ませ感じさせる演技が出来たのか。驚きの驚きである。

小池栄子・・・怪演

永作博美・・・巧いと思ってたけどこの映画では他の女優があまりに素晴らしいので演技のわざとらしさが目につく。でも・・・最後まで観ると、無くてはならない存在感をだしている。

市川実和子・・・相変わらず以上の怪演

余貴美子・・・これはちょっと外してる。

・子供たち、上手い!・・・・

永作博美と子供が施設を逃げ出すところからいきなり映画が躍動を始める。逃げ出した親子を有刺鉄線の内側から見つめる子供の目。なんて悲しい目をしているんだろう。こんな子供にこんな悲しみの演技が出来るのだろうかと驚くとともに怖くなる。


・そして、小豆島に渡ってからの部分。これががなんともいえず良い。凄い、そして、とてつもなく美しい。素晴らしい。
風景描写にしても、子供との触れあい、子供たちとの触れあい、うどん作りや村芸能の場面、段々畑、お祭りの場面にしても、素晴らしい。。。これは秀逸だ。あれこれ地方ロケの映画があって、その地の風習や風景を取り上げているけれど、この「八日目の蝉」は元々がそういうご当地映画ではないのに、こんなに地方の風景を美しく情緒的に描いている。これは稀なる例だ。驚いた。

・日本の良さが輝いている。日本の夏をとても強く感じる。この風景の日本の夏の素晴らしさを肌で感じ、心でしっかり感じ受け止め感動する体験がなければ再現できるものじゃない。観ていて肌がぶるぶると震え、痺れるくらいに素晴らしい場面の連続だ。

・余りにも素晴らしくて良過ぎるものだから1時間20分位まで戻してもう一度見直してしまった。

・夏の夕暮れ、段々畑の中を竹に灯した松明を持って沢山の人が歩いていく場面なんか、音楽もいいし、もうブルブルと涙がでそうなくらいこの場面だけで心が揺り動かされ感動してしまった。「小豆島に渡ってからの場面だけでアカデミー賞やるよ。他なんかなくても」とさえ思えてしまう素晴らしさだ。
http://www.town.shodoshima.lg.jp/oshirase/youkame-semi.html

☆これは小豆島で行われる初夏の風物詩 ”虫送り” という風習行事ということだ。見てみたいなぁ。夏の夕暮れにこれを見たら感動して涙をながしてしまうかもなぁ。

四国新聞社記事:http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/locality/20100703000133
「田植えが終わる時期とされる「半夏生」の2日夜、火で稲の虫を退治して豊作を願う伝統行事「虫送り」が香川県土庄町肥土山で行われた。火手(ほて)とよばれる松明4 件(たいまつ)を手にした地元の親子連れら約300人があぜ道を練り歩き、のどかな田園地帯に幻想的な光景を描き出した。
 午後6時から小豆島霊場46番札所多聞寺で五穀豊穣を祈願し、虫塚で稲の虫を供養した後、灯明を農村歌舞伎で有名な肥土山離宮八幡神社へと運んだ。
子供らは竹で作った長さ約1・5メートルほどの火手に火をつけ午後7時ごろ、約1・5キロ先の蓬莱橋(ほうらいばし)を目指して神社を出発。青々とした水田に燃え盛る炎をかざしながら歩くと1本の長い光の帯となった。」

☆この行事は何年も行われていなかったらしい。この映画のロケを機に復活することになったという。・・・・もう、本当に素晴らしい!

《小豆島伝統の「虫送り」復活へ 「八日目の蝉」ロケ機に》
http://www.asahi.com/national/update/0703/OSK201107030127.html
香川県の小豆島でこの夏、夜の棚田をたいまつが彩る伝統行事「虫送り」が7年ぶりによみがえる。たいまつを持つ子どもが少なくなり途絶えていたが、小豆島を舞台にした映画のロケをきっかけに、島民のなかに復活の機運が高まった。」

・これはロケをコーディネートしたスタッフの力が相当に大きく貢献しているだろう。座布団10枚以上あげても足りない位の素晴らしさだ。

・そして、なんといっても井上真央が徹底的にいい。

・過去と現在を交互に組み合わせた脚本のアレンジ、演出がいい。編集もいい。音楽もいい。無理に説明しないで感じさせる映画の作りもいい。ラストもいい。ただし中島美嘉の最後の音楽は作風に合ってない蛇足。

・出だしがどうにもがっかりだったけど、そこを外せば『八日目の蝉』は良い映画に仕上がっている。

・「この島に戻りたかった・・・・」故郷、心の故郷、美しい想い出。そうか・・・それこそが映画版『八日目の蝉』の背骨であり、作品にとうとうと流れている本流なのだ。

・生みの親、育ての親、不倫や愛情、犯罪、原作小説にはいっぱい色んな考えるべき要素がちりばめられているんだろうけど、この映画『八日目の蝉』はそういうところを敢えて積極的には取り上げず、誘拐された少女の心と、成長した少女の心、そしてその視点を中心として話を編成し、心の原点回帰といった部分に焦点を当てて映画として再構築したことが大いに成功していると言える。

・映画が小説を昇華させている。感動!!