『奈緒子』(2008)

●マラソンや駅伝を題材とした映画というのも思い起こしてみれば結構ある。『ekiden』はなかなかイイ作品だった。

●ただ走っている、それだけなのに2時間以上のTV中継を人はずっと飽きもせず見続ける。番組の視聴率も高い、人が走るという根源的な人間の行為、その姿には人を引き付ける大きな魅力があるということなのだ。

●その走る行為を題材として映画にするのだから、面白くないわけがない・・・と、思うのだが、さすがにそうとばかり言えるものでもない。

●この『奈緒子』という作品、コミックは奈緒子という女性を主人公にして物凄い人気がある漫画だということだが、映画は奈緒子が主人公としての位置に居ない。上野樹里をキャスティングしたのだから配役では上野樹里演ずる奈緒子が主人公ではあろうが、このストーリーでは主人公は奈緒子ではなく壱岐雄介になっている。

●映像はおやっと思うほど美しい。印象的なアングル、シーンもいくつかある。走っているシーンも躍動的で良い絵だ。

●雄介を演じる三浦春馬の真っ直ぐで純粋で青々とした高校生姿が好印象。他の映画やTVドラマなどで観る姿とはまるで別人のような印象を受ける。

●そういったスポットではあれこれと目を引く部分があるのだが、一番大切なストーリーがまるでなっていない。

●こましゃくれた演出、人を引き付けるカット、映像ならば監督やカメラマンの小手先の技でも出来る。だが、映画は全部を観て一本の作品としてどうかということこそが大事だ。この映画は脚本が全く練り込まれていない。親の事故死やその原因となってしまったことへの葛藤、高校生活、クラブの合宿の様子、駅伝大会に挑む部員一人ひとりの姿などは映画の中で一つの流れとして結び付き絡まり合っていない。ごろごろとジャガイモが鍋の中に放り込まれているままの状態。

●目立つ役者を揃えても、人が走るという魅力的な題材を扱っていても、ぶっきらぼうで類型的な話を横に繋げただけでは感動も感激も訪れることはない。

●極めて表面的にありきたりのお話を繋げただけの詰まらない映画にしかなっていない。

●これは一にも二にも脚本のあまりの適当さといえるだろう。