『運命を分けたザイル2』

運命を分けたザイル』:http://d.hatena.ne.jp/LACROIX/20100506

●内容としては『運命を分けたザイル』で奇跡的生還を果たした主人公を使い、1936年のトニー・クルツ、アイガー北壁遭難を回顧しながら、クルツの遭難の様子を再現し、事故が起きた原因を説明するというもの。人は何故山に挑むのか、何故死の危険性がありながらより危険な山を制服しようとするのか、山岳登攀の意義を考察し、人間が山を登ろうとする心を考察し探求している作品。

●『運命を分けたザイル』の思いの他のヒットに乗じ、その名前が人々の記憶に残っている間にもう一度映画を当てようと狙った二番煎じの作品であろうと思っていたが、山で遭難し、奇跡的に生還した男が、山と遭難、そして山を登る意義を考えるという内容に仕上がっており、今までにないタイプの山岳映画としてこれは後世に残る一本かもしれない。

●クルツの時代の登攀、装備と、現代を比較するように交互に映像を映し出しているのが非常に印象的。

●ヨーロッパ・アルプスをとらえた映像としてはトップクラスの美しさであり、航空撮影で映し出されるアルプスの峰々の鋭さ、切り立った稜線、ナイフエッジ、アイガーヴァントは息を飲むほどの美しさと凄さ、
アルプスを映し出した映像資料としてもこの作品は一級の価値がある。

●トニー・クルツ隊のメンバー、そしてアイガー・ヴァント駅の直ぐ上まで下りて来ていながら力尽きザイルにぶら下がり絶命したトニー・クルツの死の凄まじさには声を失う。

●『自分は死なないという若者独特の自信は消えうせた』映画のラストで語られる言葉はかって山を登っていた男全てが思い起こし、自分もそう思っていた。だが今は・・・と共感し納得する言葉であろう。それでももしチャンスがあればまた山に登りたい、そう思ってしまう自分を「おれはバカだ」と自戒する顔に驕りはない。純粋な気持ちの現れだろう。

死の壁、アイガー北壁での死者は現在まで60数名だという。余りの難しさに安易な気持ちのクライマーが取り付くことすらも拒絶する壁だったから、この位の人数なのだろう。日本の谷川岳は800名近い遭難者で単独の山としては世界最高の遭難者数。この差は物事に一気に加熱し猪突猛進してしまう日本人の精神文化によるものだろうか? 今はそんなことはないだろうけれど。


●トニー・クルツの命が絶え、ザイルにぶらさがり、そのすぐ下、手の届きそうな所に救助隊が映っている写真を子供の頃に見た記憶がある。この映画を見ていてその写真を見たことを思い出したが、どこで、どんな雑誌、本で見たのかが思い出せない。
ウオルター・アンスワースの名著『アルプスは再び征服された』新島吉昭訳かと思い古い本を取り出したが写真はなかった。ネットで調べれば直ぐに写真は見つかるが、小さい頃この写真をどこで見たのかという記憶の糸は手繰りよせられない。
●この写真は谷川岳一ノ倉・衝立岩 登山者宙吊り事件の写真と共に、山の恐ろしさを伝える写真として多くの人の脳裏に焼き付いているものであろう。

●トニー・クルツらの遭難を題材とした映画『アイガー北壁』は未見。ドキュメンタリーに非常に近いスタイルのこの映画と、演出を加えたストーリーとして作られた『アイガー北壁』、いずれそれも観てみよう。