『岳 -ガク- 』(2011)

・山の映画というとどれだけ山を本当に理解しているかというところがあれこれ指摘される。あんなの嘘だろ、あんなんで山なんか登れるか。でたらめだ。そういうチクリは『剣岳 点の記』でもいっぱいあった。

・しっかりと正確に山登り、岩登り、その自然の中での登り方、生き方を描こうとすると、これはお金も山のようにかかるし、出ている俳優にもしっかりとした訓練をさせなきゃならない。ということでそれは無理だから描き方がいい加減になるのだろう。ましてや小栗旬長澤まさみにしっかりとした本格的な山登りの実践を仕込むというわけにもいくまい。第一義は客引きのアイドル・キャスティングでしかないのだから。

・出だしから「これはありえん」というシーンの連続、セルフビレイも取らず、ザイルを結ぶこともなく岩を登っている姿や、三歩がザイルを結んでいた親友がトップから滑落してくるとき、ザイルを掴んで落下を止めようとするわけでもなく、落下してくる仲間を見ながら手を出すシーンにいたって「ああ、もうこの映画は山の映画として考えるのはやめとこ。アイドル二人のおちゃらけ、なんちゃって山映画としてみることにしよう」と決めた。山登りの描写がデタラメ過ぎるからだ。真面目に見ていたら阿呆らしいを通り越してしまう。

・そんな事には興味ない、山登り、岩登りなんて知らないんだから演出として出来上がっていればいいという輩もいるかもしれないが、それは脚本のおざなりさ、いいかげんさ、映画の真実っぽさを装った嘘でしかないのだ。オフザケ映画、リアルさを追及しないSF映画ならそれでもいいが、この映画は真実、現実感を追及しなければならない映画だ。それが嘘を平気で纏っているからおかしなことになる。結局はそれが完成度、作品の質の低さに繋がってしまう。

・山登りに関するアドバイザーをちゃんと入れたのかな? 一応入れているけど、腑抜けた脚本と演出を優先させて実際の山登り、その本当の姿ってところはどうでもよく処理したんだろう。

・雲海の夕焼け場面や、雪を抱く日本アルプスの風景など綺麗な絵はあれこれあるが、今のデジタル撮影の技術とそこそこのカメラマンならこのくらいの絵は撮れるだろう。撮影は奥穂や立山あたりの北アルプス中心だろうか? 

・なんにしても山の場面やその状況描写がかなり以上にいい加減でデタラメなので、これは山を知っている人からすれば呆れる内容。でも知らない人、山のことなんてどうだっていいって人からすれば、そういうデタラメさには気が付かないからなるほどと思う映画かもしれない。どっちにしろ作品はいい加減な作りと言うしか無い。

・ラストの出演者テロップに平山ユージと出ていたんで、どこかにいたのか? と思ったら山小屋のシーンで原作者と一緒にちょっとエキストラ出演していたということ。平山ユージはロッククライミングの人間だから、雪山とかに関しては、アドバイザリー的な立場としてはあまり役には立っていないのではないだろうか。

・山の映画として観なければ、まあそれなりの観客の受け狙いをあちこちはめこんだ最近のよくある邦画といったところ。

長澤まさみがなんだかアイドルっぽく全く見えない、山岳救助隊志願のオバカな女にしか見えないというのが、実に不思議・・・派手さまるでなし。