『きみの友だち』(2008)

●映画の最初のところで、小さな女の子が縄跳びの縄を回すシーンがとても良い。小さな女の子2人には長すぎるのではと思うほどの縄跳びの縄。2人の息が合わなくて縄はきちんと回らず、ちぐはぐに波打ち蛇行する。かなり引きで撮っているので女の子の表情などは見えないのだが、とても微笑ましく可愛らしいシーン。光の当たり具合も良く、絵が美しい。このシーンを観て「ん、これはなかなかいい作品かも?」と期待した・・・が・・・。

●中学校内での出来事、サッカー部、施設に来たカメラマンとのやり取り、いろいろな話が盛り込まれている。それが全て話の本筋から遊離している。全てのエピソードが二人の女の子の思い出に少しずつ絡んではいるのだけれど、観終わって思ったのは「あの話も、この話も要らない」ということだった。

●色々な思い出があって、好きな友だちの思い出は、その色々な思い出の積み重ねで出来上がっているのだけれど、描かれているエピソードが二人の女の子の思い出の二又も三又も離れたところを流れている。流れを辿れば一つ々のエピソードと二人の女の子の思い出は結びつくのだけれど、その結び付き方が希薄で、凄く遠い。

●サッカー部のことも、クラスで一緒だった女の子のことも、施設に訪れたカメラマンのことも、そのカメラマンと付き合って、亡くなった女の子の両親に紹介する話も・・・・・なんだか全部要らないって気がする。

●ストーリーに深みを出そうとあれこれ話を盛り込んでいるのかもしれないけれど、時間の流れも過去に行ったり、現在に戻ったりといじくっているけれど、脚本家があれこれテクニックを使おうとして全部それが逆効果になってしまっている気がする。

●繋がりの薄いエピソードはテーマを完全にぼかしてしまっているし、時制を入り組ませたことで話の主軸までぐらつかせてしまっている。

●映画を観終えて思ったのは、最初の方で観た、二人の女の子が縄跳びの縄をちぐはぐに蛇行させて回す素敵なシーンが、皮肉にもこの映画そのものを象徴してしまっているということだった。

●この映画はストーリーがちぐはぐに蛇行して、浮遊していて、全然綺麗な流れになっていないのだ。少女二人が回すちぐはぐに蛇行する縄跳びの縄のように・・・・・・。

●光の使い方もいいし、映像もとても美しい。なのにストーリーは全然しっくりと落ち着かない。あっちへいったりこっちへいったりを繰り返している。二人の女の子の話が中心なはずなのに、余計な話がペタクタ貼り付けられていてとても話を横道にそらされてばかりという感じがする。

●少女2人のストーリーを中心にしてスーッと素直に真っ直ぐに、純朴に話が進めばもっと分かりやすく、もっと感動したと思うのだけど、話があっちこっちに飛び、しかも時制までも弄くっているので余計に少女の話にのめり込めなくなってしまう。下手にテクニックを使おうとして主軸をぐらつかせてしまっている脚本のミス。それとも二人の女の子の話だけでは尺が足りなかったから余計な話を継ぎ足したのか? なんにしても良い素材を余計なものを加えたために、素材の良さを薄め、分かりにくくしてしまっているという感が否めない。
(原作も少女二人のストーリーを主軸に他のストーリーが絡み合っていくという構成らしいから、この脚本は原作にそった作りだったのかもしれない。だが、そうであったとしてもこの映画では大切な主軸が希釈され主軸であるべき強さや輝きを失ってしまっていることには変わりない)

●「知り合って色々な思い出を作ってしまうと、別れる時に辛くなるから、関わらない方がいい」そんな意味の台詞があったかと思うが、映画は色々な話を入れてしまったからら、却って伝えたいことがふわふわとぼやけてしまって、話が希薄になってしまっている。二人の関わりと思い出すらも希薄化されてしまっている。

●料理と同じかな? 良い素材をあれこれいじくり回してコネてしまって、素材の良さを薄くしてしまっている。


●少女のころから、中学になって病気で亡くなってしまうまでの二人の思い出を変にいじくり回さずに積み重ねていったら最後にもっとジーンときたんじゃないかなぁって思う。

●あれこれと話を繋いできても、その9割がどうしょうもない内容であっても、最後の1割で泣きを入れると、その1割にジンときて、涙が浮かんで、心が締め付けられて「まあなかなかの映画だった」と感じてしまう。そんな映画というのも結構ある。人は最後の最後にジンと来れば「ああ良かった」と思ってしまうもの。でも、終わりよければ全て良とするという言葉は映画に当てはめるわけにはいかない。最後に泣かせて、それで全部を丸く収めてしまうような映画、点を稼ぐような映画は、映画の作りとして非であり、都合の良い逃げの作りの映画。

●この映画はそこまで酷くはないけれど「最後にジーンと来たからなかなかよかった」なんて言うごろごろ転がっているような安直な評価はできないし、そういう評価をする人は「木を見て森を見ず」であろうと思う。

●最初に観た縄跳びの縄を回す二人の少女のイメージから話が積み上げられて大切な友だちとの心の繋がりを素直に描いてくれたならきっと良い映画になったんじゃないかなと思う、だからこの映画は非常に残念だ。

●BGMも良い感じだし光の美しさを意識した映像がとてもいい。

吉高由里子のエピソードも全体から浮き出してしまっている。というか主役の二人よりも吉高由里子の存在感、イメージが強すぎてこのエピソードが力を持ちすぎ柔らかく流れる本流から遊離してしまっているのだ。吉高由里子は悪くないのだが、これはキャスティングのミス。主役よりも強いイメージをもつ脇役を配したのでは主役がかすむ。これも主軸となるストーリーを希薄化させている一要因。

●奇しくもこの映画の中で一番美しく情緒あるシーン、二人の少女が縄跳びの縄をちぐはぐに蛇行させて回すシーンが、さながら映画全体を比喩するように、ちぐはぐに蛇行するストーリーは心の深いところまで届かない。