『波の数だけ抱きしめて』(1991)

●1991年、前年のSURF90の余韻がまだ海に残っているこの頃の湘南の海は楽しかった。ビーチはいろんな海の家でいっぱいだったし、朝から晩まで騒いではしゃいでいた時代。前年に『稲村ジェーン』が公開され、そして翌年『波の数だけ抱きしめて』が公開された。この二作はあの頃あの海であの時代の空気の中ではしゃいでいた人にとって、思い出とオーバーラップするような映画だろう。

●映画は時代を映す。観客は思い出と一緒に映画を心の中の宝石箱にしまっておく。時代が変わっても、それぞれの時代、世代、年代の中に映画は素敵な思い出と一緒に生き続ける・・・・この映画もそういう一作。

ホイチョイ・ムービーは余りにわざとらしく、もうどうしょうもない!と思う部分が多々あるのだけれど、その時代のカルチャー、雰囲気をしっかり取り入れた時代の一番トレンドな映画だったから、後から見ると思い出と一緒に懐かしさが沸き上がってくる。

●そういう意味ではホイチョイは評価できるし、良い作品を残したのだ。

●87年の『私をスキーに連れてって』と91年の『波の数だけ抱きしめて』には懐かしさや良さを感じるのだが、89年の『彼女が水着に着替えたら』はなんだかちょっと違う。逗子やシーボニアで撮影されていたのだけれど、あまりに企業宣伝的な映画過ぎたためちょっと白けて映画が好きになれなかった。ホイチョイの中では『彼女が水着に着替えたら』はもう一度観たいなぁという気持ちが殆ど起きてこない。ちょっと前に作られた『バブルへgo』は多分もっとそういう気持ちは起きないだろうし、思い出に残るような作品ではないが。

●この映画を映画館で観たときに最初に感じた気持ちをまだ覚えている。
『海の感じが全然湘南っぽくない。日差しに夏のあのギラギラとした強さがないなぁ。これは夏の光、夏の海、夏の砂浜じゃない。夏前に撮影したんだろう』
と思った。
常日頃海辺で太陽を浴びているとフィルムに映された光の具合、空気感で、それが湘南なのか、夏なのかってことは分かってしまうものだ。だからちょっとがっかりしてた、あの頃は。これ夏じゃないなって思って。(実際の撮影は千葉らしいし)
中山美穂にしろ松下由樹にしろ、日焼け顔が余りにも不自然。靴墨を塗ったようなメイクで、これは日焼けした顔とは違うだろうって思っていた。ほとんどラッツ&スターの黒塗り顔だ。そんなところにもなんだかなぁという気持ちは抱いていた。

●広告代理店、ミッションスクール、親の海外赴任で自分も海外に行く。彼とどうすればいいか悩む・・・もう当時のTVドラマで散々使われた設定、お決まりのパターンがまたかよという感じで堂々と使われている。もう少し頭を捻って話の設定を少しでも変えようとしないのか?手垢ベタベタなんだけど、そういう話は・・・と思っていた。

●そんなことを思いながらも、湘南茅ケ崎から森戸までミニFM局を繋ぐという話にはときめいた。映画の中で使われる小道具にも懐かしさを感じていた。特にティアックのデッキやTASCAMのオープンリール、そしてプリモのビール(しょっちゅう飲んでたなぁ、少し香りがあって、この映画で使われている缶とはデザインが違うものだったけれど)なども、そうそう、それ!って感じでだ。

●制作陣がこだわって集めた小物たちを見るのも楽しかった。ユーミンの歌の歌詞に合わせたストーリーもちょっと涙ものだったし、この頃の時代を過ごした人にとっては、やはりこの映画は自分たちがはしゃいで元気で騒いでいたあの雰囲気をしっかり包んで、映像として記録してくれている大切な映画なのだ。

●たぶんこの映画も繰り返し見てしまう一本。歳をとってから、友達と懐かしんで「あの頃を思い出しながら見る」そんなちっぽけな感傷的な映画なのかもね。
☆こんなブログを作っている人も!《波の数だけ抱きしめてblog》細かなアイテムのことはここに全部解説されているね。映画ってこういう思い入れを持った人が必ず出来るところが素敵なことなんだと思う。

●長柄のトンネルのシーンは最初に見たときから「あそことはちょっと違うよなぁ、だいたいあそこのトンネル、こんな撮影出来るくらい車が来ないことなんてないよ、常に車が走ってるんだから」と思っていたのだが(なんせすぐ裏でしょっちゅう通っているところなのだから)・・・・今回もう一度確認して、ネットでも調べたら観音崎の旧道側のトンネルが撮影場所だったようだ。三浦半島のトンネルはどれもみんな同じような入り口だから分からなかったけれど。

●そういえば当時この映画のKiwiFMのマークをステッカーにしたものが劇場で売っていて、それを買って、洗車用のプラスチック・バケツに貼っていた。もう18年も経つわけだけれど、散々日光に照らされ、水がかけられ、粗っぽい使い方をされているバケツなのに、このステッカーがまだ全然色あせも剥がれもせず残っている。今と違ってコストダウンばかり考えず、きちんと耐紫外線フィルムだとか、シールの耐久性なども強く作られているシールなんだろうなぁ。最近のステッカーなんて安く作っているからすぐにぼろぼろに剥がれてくるものばかりだもん。こういうところにも時代を感じるなぁ。

●この作品でこのブログも365日書いたことになった。最近は古い作品のことばかり書いているけれど、まあゆっくりぽつぽつと続けていくとしよう。1000日とか数年後に達したらそれはそれで映画のデータベース位にはなるかもしれないし。

☆2010年6月25日DVD、BD発売・・・・遂に発売になるけれど、あの夏のまぶしい光は映画の中に出ていないのだからDVDで充分かも。