『家族ゲーム』(1983)

●最近の森田芳光監督作品を観て、どれもこれも「なんだこれは?」とがっかりして憤りを感じるような作品ばかりが続いていた。一時は新進気鋭の監督、日本映画のニューウェーブ・・・なんて言われていた時期もあったというのに。

『海猫』はもう画面をびりびりに引き裂いてゴミ箱に放り投げたい気持ちになる程の酷い最悪な映画であったし, 『間宮兄弟』にしても,『サウスバウンド』にしても一体この監督はなんなんだ?何を考えてるんだという映画が続き、かっての先鋭的な才能の欠片も感じられないような雇われ監督的映画の連続に、もう飽き飽きして、匙を投げた。

●そんな森田芳光監督作品の中では唯一と言っていいほどトゲトゲしさと、他にはない毒と、映画としての面白さを持った作品『家族ゲーム』を再見。若かりし頃に、この一作でもって時の監督、有名監督になったと言っても過言ではない。

●やはり面白い。この皮肉たっぷりの演出。受験戦争だ、家族の絆だ、中学校の問題だ・・・などとこの映画になにか主張やテーマを見出し、あるいはこじつけることも可能だが、この映画にはそういった主義主張、テーマなんてものはなにもないんじゃないかなと思える。監督は「へっ」と口をひん曲げながら世の中なんてこんなもんさと冷笑し、冷たく距離をおいてこの映画を作っている感じがする。

●この映画の雰囲気はその後の北野武に通じていると思う。『家族ゲーム』のシニカルで冷めた演出、監督の目を、もっと暴力描写、設定の激しさで厚塗りしたのが北野作品ではないだろうか?『家族ゲーム』を観ていたら北野武の原点は『家族ゲーム』にあったのではないかと感じた。『家族ゲーム』を手本にし、真似、発展させたのが北野作品なのではないだろうか?(北野作品は2,3の特例を除いてほとんど大が付くほど嫌いだが・・・)

●のっぺりとした塗り壁のような表情をまるで変えない松田優作の演技の味。伊丹十三由紀さおり宮川一朗太とメインの役者も癖とあくがありさほど台詞を喋っていなくても画面に味が出る。隠し味的な役者がずらりとそろっているから映像にも味がある。

●エキサイティングな場面があるわけでもなく、変な家庭教師と、変な家族、変な学校の人間関係、それが交錯しているだけ、それだけの映画なのに、何かむしゃむしゃっと噛んで口の中に旨味がしみだしてくるような不思議な映画だ。

●最後のヘリコプターは何なのか? 何とでも取れるだろうから、あれはこうなんだ、あれはこういった暗喩なんだなどというような推論を語っても仕方あるまい。

●観終わって爽やかさが残るわけではなく、感動するわけでもなく、悲しんだり絶望したりするわけでもない映画だが、なんだか面白かったなと思わせる部分が確実にある。

●これはシニカルなブラックコメディーなのだろう。

●久しぶりに観た『家族ゲーム』はやはり面白かった。海外で評判がよかったのは、目玉焼きをチュウチュウするだとか、狭い団地の部屋で横並びで食事をするだとか、相変わらずいつものパターンで、海外映画祭で、日本のエキセントリックな部分が受けたのだろうと思っていたのだが、そこもあるかもしれないが、それだけではなかったんだろとようやく分かった気がした。

●この作品以外で森田芳光監督の映画に褒め言葉を与えるものはない。森田芳光ももう歳だが、今の状況からみていると結局、森田芳光にとって『家族ゲーム』が最高傑作であり、最初で最後の一発だったということになってしまうだろう・・・。

●原作小説(1981年第5回すばる文学賞受賞)を書いた本間洋平はその後一作品小説を書いただけで表舞台には出てきていない。名前を変えて活動しているということもあるかもしれないが、その後は何をしているのだろう?