『運命を分けたザイル』

●インタビュー映像を織り交ぜることにより、映画に真実味を出そうという手法は最近やたら多い。このやり方もいい加減手垢べとべとで、もう斬新さなどは感じられない。それでもフィクションである映像を真実っぽく見せたいという監督はなんとも浅はかにこの手法に手をだす。いい加減にすればいいとおもうのだが。

●ただし、この『運命を分けたザイル』の場合はちょっと違う。なにせインタビューを受けているのが実際のリアルストーリーの人物なのだから。

●作られた山岳遭難の映像も壮絶であり、よくもまあこれだけのシーンを撮影したものだと感心。ウソッぽいところは殆ど見当たらない。その壮絶な遭難のシーンに織り交ぜて、実際に遭難した二人が平気な顔でしゃべっているのをみると、ちょっと違和感も有る。作られた映画としての映像が凄まじすぎて、真実の遭難者である二人の(もう時間もたってケガや凍傷からも回復しているのだから常人であるしあたりまえなのだが)なんでもない姿が却って変に見える。いや、それだけ作られた映像が凄いということなのだ。

●クレバスに落ちて、はい上がることが出来ないと分かったとしても、一縷の望みをかけてクレバスの底に向かって進むなんて・・・・もう信じられない。通常で考えれば地獄の底に向かって進んでいくようなものだ。留まっていても死を待つだけなのだからひょっとしたらの可能性に賭けたというのは見ている側、冷静に映像を見ているこちらがわからは理解できるが、その時、当事者はいったいどんな気持ちだったのだろうと思うと、もう胸が張り裂けるような恐怖を感じる。

『オープンウォーター』もそうだったが、自然のなかに取り残された時の気持ち、その絶望感というのは並大抵のものではない。そんじょそこらの恐怖映画などよりよほど恐怖と絶望感を感じる。

●山岳映画は数々あれど、これは映像としては一番であろう。出鱈目なシーンはほとんどなく、山を知っている者でも納得のいく映像であろう。それにしてもよくこれ程までに壮絶な山岳シーンを撮影したものだ。驚異的だ。

●それにしても山登りをテーマとした映画というのは殆どヒットしない。というか公開規模がいつも小さい。やはり一部の人にしかアピールできないという判断がされるのだろうなぁ。
『アイガー北壁』も本当に少しの劇場でしか掛らなかったから結局観るチャンスがなかった。この『運命を分けたザイル』も今はなくなった新宿高島屋テアトルタイムズスクエアでレイトショーで公開されていて、評判も良かったので観に行ったのだが、興業の終わりに近くて週3回隔日の公開になっているのを知らず、なんとか都合を付けて観に行ったら、その日は上映なしだったという苦い思い出が有るなぁ。

●日本でもミニヤコンカ奇跡の生還がこの映画の話以上に壮絶なのだけれど・・・・そういうのを映画化するってことは・・・日本ではないだろう、たぶん。