●前作「ダ・ヴィンチ・コード」はちょっとなぁ、という作品であった。キリスト出生の秘密は教会組織に都合の良いように捏造され捻じ曲げられてきたのだ!と歴史の嘘を白日の下に曝け出そうとするような、真実はこんなんだと声高々に叫んでいるような結構社会性もある話なのに、なんだか作りがそれこそ捏造っぽくて「おいおい、そんな説明でいいの、そんな終わり方でいいの?」とがっかりさせられた。
●『天使と悪魔』は前作「ダ・ヴィンチ・コード」の続編ということだが主役が同じで、宗教に絡めたストーリーということが同じなだけで、話に連続性はないし、続編ではなく単純別物のシリーズ2作目というようなお話である。(原作小説は「天使と悪魔」の方が先に出版されているらしい)
●あまり期待はしないで観たのだがこれが思った以上に期待外れで結構面白かった。エンターテイメント性はかなり高く、サスペンス、ミステリーの娯楽作品としては上出来。(突込みどころも多々あるけれど)この位面白ければ歴史がどうとか、宗教がどうとかゆう辛気臭いことは抜きで楽しめる。
●歴史をベースとして話を構築したエンターテイメント作品は「インディ・ジョーンズ」があるが、「天使と悪魔」は宗教史、宗教問題をベースとして話が構築されたエンターテイメント作品。言ってみればアクションは無いけれどラングドン教授はインディ・ジョーンズに当たるわけだ。
●宗教をエンターテイメントにしていいの?と思う部分はあるのだが、宗教の歴史は深く、複雑で神秘的でもあるから、ネタとして使うには面白さと深みを出せるのであろう。歴史にしても宗教にしてもそれをベースにしてサスペンスを組み立てるには相当の知識と理解が無いとだめであろうから、こういう小説、映画を作る人は勉強が大変だろうなと思うけれど。
●反物質を使った爆弾というのはちょっと話が飛躍しすぎているんじゃないの?と思った。最初の反物質生成のシーンなどは、まるでSF映画を観ているような感じ。反物質生成の研究員だったヴェトラが「あの爆弾はうん百キロ相当の爆破エネルギーがあるのよ」(みたいなこと)を言っているのだが、後半で実際に爆破したときはなんだか爆風だけが凄くて、バチカンもそんなに被害を受けていないじゃないの?とご都合主義的爆破に目を細めた。反物質の対消滅が実際に起こせるかとか難しい科学的論証は横においておいて、大爆破になると言っていた爆弾があれっぽっちの被害しか出さないんだったら、大したこと無いじゃないの? ヘリコプターがバチカン市のどのくらいまで上昇できるかってのも疑問だし。まあ、そこはエンターテイメントとして許すけれど、ちょっと眉をひそめるものだった。
●ラストのどんでん返しはよくあるパターンではあるがなかなか面白いので良し。ところどころにあれこれ皮肉っぽい表現が混じっていてそれもちょっとスパイスになっていて面白い。教授の腕時計がミッキーマウスだとか、聖職者の服をカラーを外して着てしまうだとか。
●CGもふんだんに使って派手なシーン、大群衆のシーンなども巧く処理されているし、バチカンの歴史的な建造物も画面に沢山出てくる。そういった豪華な絵を見ているだけでも結構面白い。謎解きは見ていて分からなくなるようなものではなく、なんだか単純に指があっちを指しているだとか、矢があっちを向いているだとかで非常に分かりやすい。(子供っぽくもある) 謎の部分も教授が全部きちんとセリフで説明してくれちゃってるから理解も早い。
●ということで、2時間20分もの長さなのに、まったく飽きず、面白く一度も時計を見ないで最後まで楽しめることが出来た。(エンドロールは長すぎたけど)
●お気楽にハリウッドお得意のエンターテイメントを楽しむにはなかなかの良い一作である。お金も相当使ってるだろうし、最近薄れてきたいかにも現代ハリウッド的な映画と言えるであろう。
●宗教をこんな風にエンタメにしちゃっていいのかね?と思う部分も少しあるけれど。
●「宗教と科学はいずれ一つになるでしょう」そう言ったのはアイン・シュタインか? この映画も宗教と科学の対立を描いているけれど、一つにはならなかった。
◎星野之宣氏の描いた日本のSFコミック「2001夜物語」の中の一つの物語である第8夜「悪魔の星」にストーリーが結構類似している。
1)反物質による対消滅 2)宗教と科学の対立 3)ローマ教皇に絡む物語 4)ローマ教皇の死 など「悪魔の星」で描かれていたストーリーに重複する部分が多いなと思った。『2001夜物語」は1985年に発表され外国語版としても各国で発売されているが「天使と悪魔」の原作者であるダン・ブラウンは「2001夜物語」の中の「悪魔の星」を読んでこれをベースに利用して小説を書いているのではないか?とちょっと疑問に思った。
まあ「2001夜物語」はそもそもスタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」をモチーフとして描かれたコミックではあるけれど。
◎「イキガミ」は最初から星新一氏の作品から設定を借りたと言っていれば盗作だなどとは言われなかった。過去の優れた作品をモチーフ、ベースとして新しい作品を描くというのはなんら悪いことではない。一言断りさえすれば。
『天使と悪魔』は「日本のコミックである星野之宣氏の作品を参考として小説を書かせて頂きました。」と一言巻末に書いておいた方がいいんじゃないの??? そう思う人は結構日本にいるかもしれない。
◎ちょっと検索してみたらやはり星野之宣氏の「悪魔の星」に類似していると指摘している人は結構居るようだ・・・・。