『船を降りたら彼女の島』

●『がんばっていきましょい』の磯村一路監督作品。2002年の作品であるが、長い間これも見よう見ようと思って見れなかった一作。

●磯村監督と撮影の長田勇一の組みあわせは『がんばっていきましょい』であの水の美しさ、夕日の栄える瀬戸内海の美しさを見事にフィルムに焼き付けた。このブログの最初の方にも書いているが長田勇一の撮影する絵は自然を、本当の自然のままに映しだす。特に水をフィルムに捉える技は他のカメラマンで長田勇一に勝るものはいないのではないか? と思う。

●この作品は磯村監督が『がんばっていきましょい』と同じく、愛媛の島々を舞台にした映画と聞いていた。そしてそこには当然のように美しい海と底に浮かぶ島々の自然が沢山映しだされるだろうと思っていた。撮影が柴主高秀となっていたので、その部分だけ見て「長田勇一」ではないのか?と少し残念に思っていたが、実際の映像を見ると、緑の具合、瀬戸内の島々の遠景など美しくカメラは映しだしている。長田勇一的な「ハッ」とするような見事な美しさのシーンはこの映画の中にはなかったが、流石磯村監督と組むだけあり、自然描写はかなりのものである。

そう思って、DVDの特典映像を見ていたら、カメラマンの説明で柴主高秀は長田勇一に師事して技術を学んだとあった。なるほど、なぜ磯村監督が柴主高秀をカメラマンとして選んだのか、この映画の映像にほっとするような安心感と美しさがあるのか・・・納得した。
*特典映像の部分で柴主高秀・・・長田勇”市”に師事となっている・・・”一”の間違い。ネット上でもこの間違いは結構あるな。

●映像の良さもあるが、それ以上にこの映像を美しく情緒あるシーンに昇華させているのは押尾コータローのつま弾くギターの音色だ。音が無く、映像だけ見ていると漫然としてしまうものもあるが、この押尾のギターはセリフ以上に役者と風景の言葉、監督の意図を見る者に言葉ではなく、語りかけてくる。

●映画の中で一つのモチーフとして取上げられている、日本のジャンヌ・ダルクと呼ばれる鶴姫の話し。映画の中では劇中劇として描かれているが、その劇中劇で鶴姫を演じている女性が、気が強そうで、目がツンと吊り上がっていて、如何にも勝ち気な武将の女性というイメージで、なかなかぴったりの配役だな・・・・だれだろう、この女性は? と思っていたらサエコであった。あらまぁ、あのダルビッシュ出来ちゃった婚でまんまと美男子を手に入れたあのサエコか・・・・こんな所でこの映画に出ていたとは。これが映画初出演か? くだんの件がなかったら全く知らない女優だったかもしれないな、でも目立つ顔ではある。

石神国子という名前で石原さとみがちょとした役で出ている。このころはなんだかホントにまんまるい田舎の女子高生だね。でも気の強そうな声は
今をほうふつさせるなぁ。これはめっけもん。

●数々の賞を独占した『がんばっていきましょい』に続く磯村監督の作品ということで、様々な期待はあっただろうが、思いのほかヒットはせず、どうも埋もれている作品になってしまったようだ。内容が余りにも純朴で、淡々とし、見る人によってはやはり詰まらないとなるのではないだろうか?

●だが、自分としては音楽とのマッチング、絵の美しさ、そして、本当に強い抑揚もなく、淡々と島の暮らしを映しだしているこの映画には好感を寄せる。ラストで結婚相手が島に突然現れるあたりはイマイチだし、それまでの雰囲気を壊してしまっている感じがするのだが、それ以外は実に真面目に、実に素直に、本当に静かに静かに時の流れを追いかけているような作品だ。こんなストーリーなのに、カメラワークのよさもあってか、見ていてあまり飽きない。

木村佳乃の演技もなかなか、大杉漣のお父さん役も見事。

●ひっそりと、余り話題にはならなかったけれど、時々、静かに心を落ち着けて見たい作品と言えるかな?