『隠し砦の三悪人』(1958) 

●樋口監督版のリメイクが公開される前に、改めて胡座を組み直して再見。

●やはりすばらしい。非のうちどころなきストーリー展開 (ほんとは少しあるけれど)、見事な脚本構成、撮影、演出。映画の手本。

黒澤明監督作品はやはりエンターテイメント作品のほうがいい。『七人の侍』にしても『隠し砦の三悪人』にしても痛快で、豪快で、映画を観ながら。もうこぶしで膝を「よっしゃぁ」と叩いて喜び立ち上がるような作品が最高である。重く暗いのは嫌いだ!

●もう沢山の人が批評、分析をしているから、これだけの名作に敢えて自分があれこれ言うのはおこがましいしが、単純にこの映画は素晴らしいと言うに尽きる。

●どうしょうもなく窮地に陥り、こんな状況をどうやって抜け出すの? と観ている者が思ったところで、見事にストーリーを急展開させて、話しを上手にそして痛快に捌いていく脚本の妙は、もうただただ感嘆の極みである。

●関所抜け、騎馬武者の追跡、真壁六朗太と田所兵衛の対決、火祭り、各々が名シーンとして邦画の歴史に残っているが、誠に納得、見事である。

●最後の田所兵衛の「裏切り御免!」は本当に痛快だ。自分が好きな映画のワンシーンとして、スター・ウォーズEP4のラストにハン・ソロがルークを助けるためにファルコン号でギューンと飛んできて相手を撃ち落とし「ヒャッハー!」と叫ぶ場面がある。あそこも「よっしゃぁ」と嬉しくなって立ち上がって喜んでしまう所である。そんな感じで田所兵衛がバッサバッサと侍を切り落とし「裏切り御免!」と行って秋月側に付く場面も「よっしゃー」と嬉しくなりこぶしで膝を叩いてしまう場面である。・・・・それにしてもここら辺の展開、脚本の捌きかたは・・・ホントに凄い、見事だ。

上原美佐さんは白黒画面で、もう数十年前の女性であるのに、本当にキレイだ。この当時まだ20歳で、黒澤監督と東宝に抜擢されて初出演の映画だというのに、見事な立ち振る舞いである。男勝りの雪姫というキャラクターに、気品があり、世間知らずだけど意志が強いという女性の姿が実に見事に醸し出されている。いやはやこれまた素晴らしい。上原さんの素の上品さ、気品有る振るまい、これまでの育てられ方、しつけ、教育、そういうものが、雪姫のキャラクターに見事に生かされているというべきか。

●痛快極楽、素晴らしい窮地脱出、見事などんでん返しの拍手喝さいの大結末・・・・映画はこうあるべき、エンターテイメントはこうあるべきと痛切に感じる名作だ。

●タイトルの「隠し砦の三悪人」は自分も映画の中身と繋がってないんじゃないか? と常々疑問に思っていたのだが黒澤監督が言葉の語呂や好きな言い回しのフィーリングで付けたということらしい。

隠し砦は最初の方にしか出てこないし、三悪人ってだれのこと? という疑問はこの作品を観た多くの人が思うことだろう。これはタイトルの付け方にいろいろいちゃもんを付けてる自分としてはタイトルと作品の中身に明確な関連性がないと駄目だと言うのが常なのだが、やはり神様黒澤か? このタイトルに関してはなぜか内容と絡まないくせに見事にタイトルだけでも輝いている。言葉の持つ光、魅力というものなんだろう。

2010/9/12追記:黒澤明が尊敬していたジョン・フォード作品に『三悪人 -3 Bad Men』 (1926)というのがあることを知った。ここから三悪人が引用されたのだろうか?

●来週から樋口監督のリメイク版「隠し砦の三悪人 The Last Princess」が公開になるが・・・・オリジナルの素晴らしさを越えることは・・・無理だろう。素晴らしい脚本があって、リメイク版はいろいろアレンジされているとはいえ、その脚本を元に映画を撮っているのに、なぜにクオリティーは下がるのか? 森田監督の「椿三十郎」もトホホな結果に終わったし・・・・やたら昨年から黒澤作品のリメイクが続いているが、もうヤメたら? と思ってしまう今日この頃。


★映画批評 by lacroix