『ファースト・ディセント』 

スノーボード好きなら見ておくべき映像。毎年毎年数多くのスノーボードビデオ(DVD)が発売されるが、なんだかちゃらちゃらしてて、おふざけばっかしで、金を払って買って損したというものが非常に多い。スノーボードを取り巻く人種、キャラクター、業界がそういったサーフィンなどと並ぶおふざけ連中が多いのはいいとして、映像作品もそんなのばっかりだとお金を払って観ようという気持ちはなくなる。凄いシークエンスやジャンプはあったとしても、映像作品としてのクオリティーは低い。だが、この作品はそいったレベルのスノーボードビデオとは雲泥の差のハイクオリティー映像DVDである。

●それにしてもスノーボードがまだ全盛を迎える前、当時のビデオで派手なことをやっていた、ショーン・ファーマーやテリエの老けたこと老けたこと。映像で見ると本当に驚きだ。「SCREAM OF COSCIOUSNESS」でまだ10代で若々しいながら生意気な事を言いつつビックジャンプをしていたテリエは頭がスキンヘッド(禿げたのか?)、自殺的とも言えるクリフ・ジャンプをし、不良の典型のようだったショーン・ファーマーは見事な中年オヤジになっている。時代の流れを感じる映像にちょっと寂しく、悲しくもなったりした。

パラマウント・スタジオがバックに付いただけあって、映像は本当に凄い。実際には一週間程度のアラスカでの撮影ということだが、ふんだんな空撮、多数のカメラなど、普通のスノーボードDVDじゃとてもこんなこと出来ないというような撮影を行っている。小さいスタジオが作っているボードDVDとは金の掛け方が一桁ちがうだろう。これは見てみれば直ぐに分かる。

●だが、映画として考えれば、大手メジャースタジオが作る作品としては、製作費は破格の安さだろう。出演しているボーダーのギャラだってスター俳優に比べれば大安だし、散々な空撮、ヘリコプター使用といっても、たかが一週間。通常映画作品と比べればあっという間の撮影期間。撮影にかかる費用も映画に比べれば破格の安さですんでいるだろう。

●この作品はスノーボード映画としては、ちまたのスノーボードDVD作品の数十番上を行くクオリティー。だが、映画としては中クラス映画以下の製作費で作られたちょっとしたドキュメンタリーというところ。だから、映画!としてみるとちょっとチャチイし。なんだかんぁ?という感じだ。だがボードや雪山好きが見れば、かって見たことの無いような美しさと、信じられないようなシークエンス、撮影技法、の連続。そういった作品である。

●途中途中に前述のBURTON「SCREAM OF CONSCIOUSNESS」の映像がそしらぬ顔で挿入されているのは、知らない人ならいいけど、「SCREAM OF CONSCIOUSNESS」を知っている人だと、「なんだぁ、焼き直しが多いなぁ」とちょっと興ざめする部分あり。なにせ20年近く前のスノーボード創世記
のビデオ映像だからねぇ。丁度2007年に「SCREAM OF CONSCIOUSNESS」はDVDで再発されたが、その絡みもあるのかな? まあ自分としてはもうすり切れて映像もノイズだらけになっていた「SCREAM OF CONSCIOUSNESS」VHSがDVDで奇麗な映像で見れるようになったからこれは嬉しい。

●この映画(まあ映画というにはちょっと??だが)東北新社が持ってきて、一応劇場に掛けたようだが、掛けただけという感じか? 一部大都市の小さな二番館のようなところでちょろっと上映されただけかな? ビデオストレートでも良かったんじゃないかな?と思うような作品だが、劇場公開作品ということで一応映画としての箔はついた感じ。

●大手のパラマウントがこういう作品にも出資するというのは、いいねぇ。まあこの内容なら世界中のスノーボード・ファンに二次利用DVDで撃ってもそこそこ需要はあるだろう。製作費も安いし、ペイはするんだろな。それがハリウッドの映画システムの良いところ、巧いところ。ずるいところ。でも羨ましいところ。

●アラスカの山々と、純白の雪の斜面、心まで澄み渡るような青い空、そこを駆け抜けるスノーボード・・・それだけを見ていても心は沸き立つ。

●ヘリコプターで名もなきピークにボーダーを下ろし、真上からそのボーダーがファースト・ディセント(最初の滑走)をするシーンを追いかけていると、ボーダーがドロップした直ぐその後に雪の斜面が一気に崩れ落ち、巨大な雪崩が発生する。ボーダーはその雪崩から逃げるようにスピードを上げて斜面をくだり、巨大ななだれはそのボーダーを食い殺そうとするかのように襲いかかってくる。これを途切れることなく真上のヘリコプターからずっと追いかけて撮影しているシーンは、最初に見たとき唖然とした。CDIなのでは?と思った位、危険で凄いシーンだ。リアルな撮影だったようだが、こういった普通ではとても撮影できないようなシークエンスが多々ある。

●潤沢な撮影費用と、トップクラスのボーダー、そしてアラスカという大自然、この組み合わせが生みだした奇跡とも言える映像である。

●その他にも、もうかってのボーダーが自分を省みることや、親とのストーリー、ちょっとした物悲しさを伝えるような部分もあり、ホームエンターテイメントとして、自宅で仲間と見るにはなかなかの一作であろう。

●これから毎年雪のシーズンが始まると、このDVDを繰り返し見ることになりそうだ。