『恋の門』(2004)

大人計画松尾スズキ初監督作品。演劇に関係する作品を「約三十の嘘」に続けて観た。(これは監督が劇団の主催者という絡みだが)

●あまりこの手の映画は積極的には観ない。演劇関係者が脚本を書いたり、メガホンを取った映画というのが、どうにも舞台から抜け出せていなく、舞台をそのままカメラで撮影したような映画が多く(三谷幸喜然り)うんざりしている部分もあったのでこの映画も同じようなものかなと思っていたのだが、全く違った。いやはややはり松尾スズキは鬼才というのが本当だなと驚く。

●文句無しに面白かった。久し振りにエンターテイメントというものを堪能できる作品であった。かなりマニアックな作品でもあり、劇中で使われるアニメだとか(全然知らなかった)、小道具、登場人物、キャラクター、セリフなど、そういうオタクな分野に詳しい人が観ればもっと大笑いするような部分がいっぱいあるのかもしれないが、そういうことを知らないで観ても充分に楽しめた。大笑いができた。これは凄いストーリーと演出の技である。

●映画に関して七面倒くさいこと、小難しい文句を書いてばっかりなのだが、こういった根っから笑えてしまう映画を観ると「ああ、やっぱりこういう単純明快に楽しめる映画っていいよなぁ、一つの形だけどこういう映画って映画本来の良さがあるよなぁ」と思ってしまった。社会派の映画も、問題作も、文芸作も映画にはいろいろあるけれど、エンターテイメントとして純粋に観て楽しめる作品。そういうのが映画って一番イイよなぁと思ってしまった。

●兎に角話が面白い。良くある展開やワザとらしさまでもがスマート。クサさがない。他の監督がやったらこうはならなかっただろう。松尾スズキの脚本の面白さ、スピーディーさ、奇抜さ、オタクさ、それらがすべて面白オカシく巧妙見事。

●同じ演劇畑の出でもこの脚本を書いて、この演出をするというのはやはり別種の人間であるな。演劇を否定するわけではないけれど、演劇臭さなんて全然感じない。一つのオフザケ映画として見事なまでに面白い。

酒井若菜のブチューというディープなキスシーンがなんと多いことか。撮影では相当濃いキスばかりさせられたのでは?しかも脚本を書いて監督をして、登場人物として出ている松尾スズキまでもが酒井若菜とドロドロのぶ厚いディープキスをしているとは・・・脚本と監督という立場を利用してこんな役までやっているとは・・・松尾スズキが出演者に対してセクハラなんて事を言われていたが、これはホント正にその通り。相当に嫌らしいけど狡く羨ましい(笑)

松尾スズキはスケベな男ならだれでもやりそうなことを堂々と恥も知らずに映画の中でやってしまっている。いやはやこれはホントに立場を利用した超セクハラ、ドスケベ監督であると感心した。

酒井若菜もグラビアアイドルからなんだか目立たなくなってきていたが、この恋乃役ははまり役である。よくぞここまでやりました。オバカ、オタクキャラがこれも見事。

大人計画平岩紙はほんのちょっと恋乃の同僚役で出ているだけなのに、相変わらず強烈な印象。この目つきと雰囲気だけで周りを食ってしまう。ハッピーフライトクワイエット・ルームの時もそうだけど、これ程強い個性、色を何気なく滲ませている人というのも滅多にいない。この人が居るだけで可笑しくなって笑ってしまう。

●こんな面白い作品を撮影期間一ヶ月で撮り終えて、これだけの映画にしてしまうのだから、やはり松尾スズキは凄い。余りに面白くて感動してしまった。

●久し振りにイイ映画を観たなという感じ。ベリーグッド!