『 パッチギ!LOVE&PEACE 』 

●ここのところコレという作品もなく、批評を書く気も余りせずしばらくこのページもほったらかし状態であったが、また一つ凄い映画に出会えたので感想を書いておこう。

●井筒監督はかなりキツイ映画批評でTVでうまいことメジャーになり話題になったが、好き嫌いが人によってかなり別れる人物ではある。そういったことから「あいつの作品なんか見る気がしねぇ」「絶対みねぇ」なんて人も多いかもしれないのだが・・・この作品は素晴らしい。彼の代表作となり、今後も日本映画の中で語り継がれていく作品となるであろう。

●第一作である「パッチギ」で在日韓国人と日本人の恋をテーマとし、イムジン川の歌詞とメロディーの哀しさを映画と見事にマッチさせた監督の手腕はたいしたものだった。この第一作は日本における人種差別、国際問題、アジアの中の日本、そんな非常にヤバイ問題をストーリーの中に取り込みつつも、そんななかで恋をする若者の姿がものすごくピュアで、すがすがしく、もう傑作と呼べるほどの熱く、そして深刻で、哀しく、甘酸っぱい青春映画であった。

●その第一作の大成功に乗じて第二作を製作すると聞いたときは「あああ、調子に乗ってしくじらなければいいけどね」などと思っていた。どうも最近のTV局主導の金儲け第一主義的な映画の作り方、売れている原作の買い漁り、柳の下に無理やりどじょうを潜り込ませるような続編の製作。そんなものに嫌気はしていたし。TV局ではなくてもハリウッドでも日本の旧体質の映画会社にしても皆同じという感じで、パッチギ2も一作目のヒットの傘の下で「ある程度以上の興業は見込めるな」なんていう考えで作られるのだろうと思っていた。

●しかし、作品に関する事前情報では在日に対する差別、日本の芸能界にたくさんいる在日の人の事などを取り上げるという話だ。「そんなシビアな問題をストーリーに入れるのか?一体どうなる?ある種タブー視されてきてるそんな話を入れるということは生半可に売れた作品の続編を作ってもう一儲けしようなんてのとは違うな。それなりの決意や信念がなければそういうことをテーマには持ってこれない。ましてや金儲け第一主義ではそんなテーマは選択するはずもない。」んーこれはちょっとこのパート2はどうなるかわからんぞ!と身を構えた。

●作品に妙な先入観を持たないようにするために事前情報はそれ以上仕入れないこととした、タブーとされているような微妙な問題をテーマにした作品ということであるならば、あれこれ善かれ悪かれいろんなノイズが噴出するだろう。そういったことを耳に入れないで井筒のパッチギ第二作目、そのトライがどういうものなのかをなるべくニュートラルな気持ちで見て感じたいと思った。

●そして実際に見た『パッチギ! LOVE & PEACE 』はかなり衝撃的な作品であった。

●日本の韓国侵攻、戦時中の日本軍の蛮行、現在でもあるであろうさまざまな在日への差別(北朝鮮、韓国を問わず)、外国人登録証の常時携帯の義務付がかってあったこと、日本の芸能界における在日の多さ・・・・・などなど、これまでタブーとされ、知ってはいても知らないふりをしてきたような際どい日本の問題点を井筒監督は容赦なくズバズバと映画の中であからさまに表現している。その表現になんらかの恣意的な誘導があるのであるならばそれは映画として偏ったものということになるだろうが、この映画を見ている事において、井筒監督が差別を助長するようなものも、それを意図的に使っているようなことも、少なくとも自分には全く感じられない。(一部メディアや映画評などでは逆に偏ったこの映画への意見がぞろぞろ出てきているようだ)

●井筒監督はありのままを描きたかった、ありのままをそこに妙な色を付け加えずそのままにフィルム上に映したのだとそう思える。ただ単に見てしまうと、なんでこんなことまで描くのか? なんでこんなことまでしゃべらせるのか?といった気持ちも湧く。だが、最後まで見て、この映画で監督は自分が実際に経験したこと、自分が若かりしころそこにあったこと、それをそのままに描いているのだな、そう思えた。

週刊現代でも監督は連載でパッチギに関するエッセイを出していたが、そこでも「あの頃はこうだったんだ」と言っている。そう、非常にキツク、ちょっとタブーとして語ることを遠ざけていたことでも、それはそこに実際に在ったこと、実際に経験したことなのだ、だからそれをそのままに描く、今回の作品に関する監督のその姿勢は称賛に値する。

●日本の軍隊に徴用されたが、そこを脱走しヤップ島に逃げ込んだアンソン、キョンジャの伯父さんの話しは壮絶にして強烈だ。爆撃の映像も今までの日本映画には無かったようなリアル感だ。そしてグサグサと心に映像とセリフが突き刺さってくる。

●細かなことを色々書くのはよそう。見ればこの映画の強さと真剣さは伝わるはずだ。

●ここまでこんなことを話しにしてしまっていいの?そういう部分はものすごくある、だがそれが表に出てしまえば、それが実際にあったことだと分かれば、知らぬ人の心も動くだろう。

キョンジャの自分が在日で有ることの告白からつづくラストは一体どんな形で終わらせるのかと思ったが、ここだけは丸くまとめた感が有る。

●なんにしても、これほど見ていて辛くなり、胸ぐらを捕まれてグイグイと揺さぶられ「どうだ!どうなんだお前は!」と言ってくるような映画は先ず無い。日本映画には殆ど無い。井筒監督・・・・・凄いと言える。

★映画批評by Lacroix