『キャタピラー』(2010)

寺島しのぶの演技は、もはや言うこと無しの熟達の域。そこに若松孝二の監督としての絵の構図が組み合わさり、何倍もの濃度になって画面に力を宿している。

・四肢不随で戦地から戻った夫との性交シーンばかりが繰り返されるので、なんだこれはという気になったが、徐々にその性交が別の意味を持ち始める。

寺島しのぶが繰り返すセックスは、女が男を強姦するという構図で対比させた戦中の日本軍が行った婦人強姦、殺戮行為への暗喩、いやそれ以上に男が女を姦淫することへの対局として描いた人間男女の原初からの従属関係に対するアンチテーゼか。