『女の子ものがたり』

●ちょうど一年位前に観て、痛く感動というかショックをうけた。
☆2010/8/18日記『女の子ものがたり』 余りに痛々しいが心に響く秀作

●もう一度じっくりしっかり観てみたいと思っていたけれど、内容の思った以上の厳しさと辛さになかなか手をだせなかった。そういう風に思う作品は本当に数少ない、もう一度観たいと思う作品も最近は本当に少ないのだけれど。

●相変わらずキツイ、ほんとうにこの作品に描かれているまだ中学から高校卒業位までの女の子の生活、人生は、胸をえぐられるほどキツイ。辛くなる。よくこれをこんな女の子を映画で描いていると思う。

●原作者である西原理恵子の出身地は高知市の浦戸というところらしい。地図で見てみたら土佐湾のほぼど真ん中。すぐ近くに坂本龍馬で有名な桂浜もある。西原理恵子が小さかった頃、今から45年位前のこの高知の小さな港町がこの映画で描かれているように殆ど絶望的に未来を描けない町だったなんて、なんとなく信じがたい部分もあるけれど、ずっと観ていると「いや、田舎の小さな港町なんてみんなこんな状況だったんじゃないだろうか。そしてそれは今だってそんなに変わってはいないんじゃないだろうか」と心の中で思う。

●なんでもかんでも全方位から描くなんて事は出来ないから、この少女たちと同じ時代に生きていた同級生の男の子だとかは描かれていないし、どんなことを思っていたかは分からない。観る側としてはあくまでこの少女たちを通して、町の雰囲気とそこに住む人々、その心情を考える。裕福な側の女の子が少しだけ描かれているけれど、あくまでこの映画の世界はこの少女たちの身近にあるものであり、目で見える範囲であり、この少女たちが幼いながらに日々感じ体験し送っている毎日の真実の生活の範囲にある。そしてその少女たちがとらえられる範囲にあるこの町は、夢も希望もなくてどうにも前に進めず、みんなでアリ地獄の底に足を引っ張り込もうとしているような暗く夢も希望もなく、絶望的な町。そこから逃げ出す方法を知らない少女は、現状を受け入れ、それを仕方がないことだと諦め、諦めてなんていない、私は幸せなんだと自分に思い込ませることでなんとか奈落の底に落ちていきそうな自分を今に繋ぎ止めている。

●男に殴られ、蹴られ、頭を割られても男に付いていくしかないと考えている女の子たち。映画とは分かっていても、観ていて胸が締めつけられて苦しくなってくる。ほんとうに・・・きつい。

●映画なんだから、演出、脚色はもちろんあれど、西原理恵子の実体験に近いというこの内容。まだ世の中も大してしらない女の子にこんな体験をさせてしまう、それを耐えることを要求してしまう町、人、世の中、家族、人間、それって一体何なんだと憤りすら感じる。でもそれが現実にはきっちりとあるんだろう。そこから抜け出してなんとか頑張って自分の未来を自分で掴み取らなければ、信じがたいこんな現実を受け入れなければならなくなるのだろう。
ほんとうに・・・きつい映画だ。

●「この町の男は帰ってきてやくざになるしかない」「うちら殴られてばっかしや」そんなセリフを笑って喋る女の子。泥のなかで取っ組み合いの喧嘩をし「おまえなんか大嫌いだ、出ていけ、帰ってくるな」と突き放す女の子。その目と心の奥に潜む「お前はウチらとは違う、才能があるんじゃ、だからこんな町にいちゃだめだ、こんな町から出ていけ、この町にいたらウチらと一緒にだめになってしまう、だから出ていけ、二度とかえってくるな」という気持ち。この喧嘩のシーンを観ていると咽を掻き切られて、胸の中に手を突っ込まれて心臓を掴み出されるように思うほど苦しくなる。女の子の心の中に潜む悔しさと悲しさと思いやりと期待と自分では果たせないだろう夢と希望を友達に託す気持ちが悲しくて辛くて、奥歯をギリギリと噛んでしまう。

●なんて映画だ、なんて作品なんだろう。こんな厳しく辛い「女の子」の物語はほとんど観たことが無い。

向田邦子は自分の書く小説や脚本で昭和の女性の本当の姿を描こうとしていたという。そしてそれを男の監督が「どうこの女を描くか、この女の心情をどう男が理解し、映像で表現するか」を試し、男がどう女を捉えているのか観察していたと言われているが、西原理恵子の体験し、描いた女の子の、男が普通では感じえないようなこんな状況を監督の森岡利行は男でありながらも強烈に描いていると思う。

●あまりにキツイ内容なのに、西原理恵子の漫画は女性ファンが多い。女性が、いや男性も敢えて書くことを避けてきた「女性にだってこんな風に男の子と同じ苦しみがあるんだ、本質的には何もかわりないんだ」ってことを、初めて描いたのが西原理恵子と言えるだろうか。

●この映画の女の子を全部男の子にしたら、となると今までよくあったような小さい男の子の夢にむかって進もうとする話としてそっくりそのまま通用する。同じことは女の子にもあったのに、女の子を中心として閉塞した古い田舎の町や人から抜け出して都会で夢を掴もうという話はいままでなかった。作られてこなかった。撮られてこなかった。

●今まで男の立場からしか描かれてこなかった事を、女の子の立場で描いたということでこの作品は凄いのだ。かってなかったことをやっているのだ。だからこそこの作品はもっと語られるべきであり、評価されるべきだ。

●ほろ苦さなんてもんじゃない、キツくて逃げ出しそうになるくらいの辛さと厳しさだ。これは今までになかった本当の意味での女の子のキレイゴトだけじゃない、真実の青春映画だ。

☆2010-08-18 『女の子ものがたり』 余りに痛々しいが心に響く秀作
http://d.hatena.ne.jp/LACROIX/20100818