『サマーウォーズ』

●やはり自分はこういったアニメーション作品はダメだな。"好み"と言ってしまえばそれで終わりなのだが、同じアニメーションでもジブリ作品は嫌いではない。じゃあ何が違うのか?と自問してみて、はたと気がついたのは描かれている絵から伝わる体温、肉感、生々しさの違いかもしれない。実写であろうが、アニメであろうが、描かれているものが人間であるならば、そこに人間としての生を感じたい。サマーウォーズに描かれている人間は、二次元のアニメ、平面の絵から浮き上がって抜け出てこない。画面からこっちに熱を発していない。それが感じられない。だから心が動かされない。

●デフォルメされたアニメーションとしてのクオリティーは高くとも、この絵、この登場人物に心が動かされない。画面に映る登場人物がそれこそRPGのキャラクターに思えてしまう。同じようなアニメーションならば「秒速5センチメートル」の方がまだ自分の嗜好には合っている。自分はアニメーションにも実写と同じような人間味を求める。アニメーションの二次元の世界の中で描かれる作品は好きになれない。それが本来のアニメーションのスタイルであったとしても。

●夏休みに入ったということで、TVでは思った以上に話題作の放映が目白押し。それも普段の自分が鑑賞の選択しないような作品が多いので、ある意味こういったいつも観ないような作品を鑑賞するというのもたまには良い。

●『サマーウォーズ』は昨年話題にはなっていたし、今回は監督がTV用に自ら再編集したといこともあり、どれだけのものかと興味津々で見てみた。だが、まさに少年少女向けアニメの延長線上にあるこの絵、この動きはダメだった。子供の頃なら好きになっていたかも知れないけれど。さらに言うならば吹替をしている役者が今一つ。神木 隆之介、桜庭ななみ谷村美月と流行りの若手役者を声優として使っているが、まだ彼ら彼女らには声だけで感情を表現し観ている者に心情を伝える段階まで演技が育っていない。登場人物の声が、どれもこれも拙いのだ。

●ストーリーにしても、仮想空間、アカウントの略奪、仮想空間内でアバターの戦い、そして田舎の大家族と面白い構成ではあるのだが、巷のネット関連の話題を摘み上げ、それに対比して田舎の大家族という今ではなかなかお目にかかれない設定を組み合わせているのが、いかにもというあざとさを感じてしまう。ストーリーに受け狙いの要素と、それに対比するものを配置した脚本家、監督の作為がもろに見え透くようで良くない。

●もしこれが実写だったら?大家族のシーンはもっとずっとどろどろして人間臭くなっていたかもしれないけれど、面白い映画になっていたんじゃないかな?なんて思う。

●仮想空間内のバトルはアニメーションの方が親和性のある話だろう。大家族にまつわる話は実写の方が面白いものになっていたかもしれない。この二つの柱が一つの作品のなかで馴染み合っていない。田舎の大家族の話という人間臭いものを、軽ーい絵柄のアニメーションの中に組み込もうとしたことが、この作品が今一つシャキっと、ドン!とこない原因かもしれない。

●やはりこの作品は子供向けかな? 『崖の上のポニョ』は子供向けだけど、大人が観賞しても充分に楽しめるアニメだ。だが『サマーウォーズ』は本当に子供向けのアニメであり、大人が観て楽しむというものでないだろう。子供向けとして製作されたのか、ある程度の大人も含めてターゲットを考えて製作されたのか、どちらかはわからないけれど。

山下達郎の主題歌「僕らの夏の夢」のメロディーもなぜかこの作品では心に響いてこなかった。山下達郎は好きなのだが、映画にメロディーが合っていない。音楽がエンディングを盛り上げていない。

●今回の地上波デジタルでの放送ではデータ放送と連携して、登場キャラクターのトリビア的な情報が映画を観ながら確認できるということだった。実際にやってみたら、あれこれ監督拘りの衣装のことだとかある種マニアックな情報が文字データ画面に出てきた。が、こんなのを見ていたら全然作品に集中できなくなる。え、どれなんだろうと画面を確認してしまうとストーリーが追えなくなる。普通に映画を観ようと思っていると邪魔にしかならない。何度かこの作品を観た人に対してならこのデータ放送は面白いかもしれないが、二三回見てこれでは本末転倒だと思い、後はデータ放送の画面はオフにした。これは映画を鑑賞するには蛇足にしかなっていないと思われる。

サマーウォーズ細田監督インタビュー:
http://eiga.com/movie/54346/interview/
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/010/10696/
http://news.dengeki.com/elem/000/000/184/184869/