『グッドモーニング・バビロン』(1987)

● 「映画を楽しませようというよりも、観る者に映画というものを味わわせたい」そんな監督の思いが伝わってくるような作品。やはりヨーロッパの映画は明らかに違うものがある。それは情緒、奥ゆかしさというべきものだろうか? 日本人の感覚に近い。

● 映画が夢や希望を持ってヨチヨチ歩きしていた時代。映画で夢や希望を叶えようとしていた時代。まだ幼く未熟であっても真摯な情熱に満ちあふれていた時代。そんな時代への憧れと懐古、この映画の基底に流れている思いとはそういったものかも知れない。

● やはり同じイタリア映画、イタリア人監督ということがあるのだろ、作品の雰囲気、匂いは「ニュー・シネマ・パラダイス」にとても似ている。柔らかく、優しく、そしてほのかに温かい絹で包まれるような感覚。この感覚は非常に女性的だ。

● 主人公の兄弟と恋し、結ばれる2人の女性も非常に美しい。そして母性的な愛を感じる。2人の兄弟はまるで母親に抱かれる無垢な子供のようだ。

● 音楽も良い。ニコラ・ヴィオバーニ

反戦を唱えたD.W.グリフィス「イントレランス」に美術スタッフとして参加した兄弟が、最終的にはヨーロッパ戦線に赴き、戦地で亡くなるという話はとても悲しい。だが、死を目前にして子供のために自分達が生きていた姿をフィルムに残しておこうとカメラを回す姿には悲しさとは違う清々しさが漂う。

● 悲しい話なのだけれど、観終えたあとには、悲しさよりも、兄弟で力を合わせ頑張って生きたその姿に心が洗われ、清々しい余韻が残る。

● 全体のカッチリとした構成の中で、最後のイタリアでの戦いの場面が非常に端折って話を進めている感は拭えない。

● それでもこの映画はとても好きだ、子供の頃に持っていた夢や憧れ、純粋な心、そういったものをこの映画はふっと思い出させてくれる。そしてそれを思い出す懐かしさと、失ってしまった寂しさも観る者に感じさせてくれる一作。

● 1987年キネマ旬報外国映画ベストテン第一位 映画好きな人、映画を愛している人はこの映画は好きになるかも知れない。ドンパチ、ドタバタの映画ではなく、じわりと心に染み込んでくる映画。