『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』

●以前NHKの放送された、沖縄美ら海水族館で尾ビレを失ったイルカに人口的なヒレを装着し、以前と変わらぬ泳ぎが出来るまでを追いかけたドキュメンタリーを見て、そこに携わる若い獣医と、美ら海水族館のスタッフの努力に感銘を受けた。(2005/2/25日放送NHK「人間ドキュメント」)その実話を元にした映画。

●この映画の中での松山ケンイチは実に爽やかな好青年を演じている。ストーリー展開は極々標準的で、特におかしなところもなく、時系列で順に話しを進めていく形だが、この映画も実際のフジとともに、美ら水族館で撮影したということで映画としてのストーリーは至極単純なのだが、事実が持つ本当の面白さがあって、飽きずにどうなるんだろう(わかっちゃいるけど)という興味が尽きず最後まで素直に映画を楽しめる作品であった。

●中身を膨らまそうと、取って付けたような挿話が、こんなの無くても良いんじゃないの?と思ってしまうが。(母親と別れてお爺ちゃんの所で生活する女子高生、その女子高生とフジの絡み、主人公植村と、東京に居る彼女の話しなどは蛇足であろう。)沖縄の青い空と、乾いた空気感、そして松山ケンイチの演技が作品全体に爽やかさを醸し出している。

●「デトロイト・メタル・シティー」での松山ケンイチの過激な演技の上手さに驚き、松山ケンイチの主演するこの「ドルフィンブルー」を観てみようと思ったわけであるが、松山ケンイチは演技に幅があっていいね。「デスノート」「ドルフィンブルー」「DMC」と全てキチンと演技が分けられており、キチンと別の人間、性格を演じている。ここが良いところだ。

●最近の、特にアイドル上がりの女優は、どんな映画に出ても、同じ演技しかしていない。Aという役と、Bという役は全く違う人格、性格なのに、全部同じ人間になってしまっている。もう少し考えたらどうなの?と言いたくなる。土屋アンナや、中村獅童広末涼子はその最たるもので、地を出しているだけで、その役の人格を演じていない。いつも同じ顔突き、同じ喋り方、同じ叫び方、与えられた役を演じているのではなく、いつも同じ自分を出しているだけで、それぞれの役を演じてなどいない。だからうんざりする。

●その点、松山ケンイチには同じ位の若さでありながら、キチンと性格分け、演じ分けをしているところに好感が持てる。

●特にドーンと来る作品ではないながらも、フジとそれを見守る人達の本当にあった心温まるストーリーに、感じ入る。

●爽やかで、気持ちが明るくなるような佳作である。