『ヒトラーの贋札』

第二次世界大戦ナチス・ドイツの行った大罪を扱った映画は山ほどある。そして、毎年のように同じくナチス・ドイツの大罪を扱ったまた新し映画が出てくる。それほどまでに、あのユダヤ人虐殺、ホロコーストはいつまでたっても歴史の中からぬぐい去れない、去ってはいけないものなのだということなのだろう。

●最近は「ライフ・イズ・ビューティフル」「戦場のピアニスト」などのように、直接にその大量虐殺を絵として扱うのではなく、その周囲のストーリーから、悲劇性をより顕著にあぶり出そうとしているような映画が多くなってきている。終戦から数十年経た今の時代ではその方がまっというなやり方なのであり、そのほうが今の人々に訴えやすいという部分も多いにあるのだろう。

●この作品も然りナチス・ドイツが行った敵対国への経済混乱計画「ベルンハルト作戦」史上最大の紙幣捏造事件をベースとして、それに関わった人々の苦悩、人間としての選択、決定、そして行き方を余計な脚色をせず、淡々と描いている。

●映画の手法としては目立つものは無い。特殊な撮影をしているわけでもなく、特殊な効果を狙ったような演出もない。実にスタンダードな撮影手法で画面は構成され、ドキュメンタリー映画を見ているかのような感じさえある。

●だが、実際にあった事件、真実の持つ重みであろう、画面からは一瞬たりとも気が抜けることはなく、ドンドンと展開するストーリーに気が付けばラストまできていたというほどのめり込んでいる。

●ドラマとして面白く、その中でこんな悲劇が実際にあったということをじんわりと伝えてくる作品。今の世の中では、強烈に押して押して、こうだったんだ、こんなに酷かったんだ、どうだ、どう思う・・・という押しの強い作品は受入れ難いということでもあろう。

●エンドロールの最後の最後に、この作品の原作者が登場するということらしかったが、その情報を仕入れていなかったから、最後の最後まで長い英語レターと真っ黒な画面を見ているのに耐えきれず外に出てしまった。後からエンドロール後の映像の事を知り、失敗したぁ、見ておけばよかった。と後悔したが、流石ネットの社会、あちこち探せばその映像がどんなものかは分ったので、まあそれなら再見しなくても大丈夫かと心が落ち着いた。

●ラストに実際の人物を出すというのは「ブロウ」でジョニー・デップが演じた麻薬王ジョージ・ユングの老け込んだ顔が映しだされるのと同じ手法。「ブロウ」の時はショッキングで、この人物が実際にこんなことをした人なのか・・・と驚きと溜息が出たが「ヒトラーの贋札」のエンドロール後の映像も同じような感覚を観ている人に与えたのだろうか?

●映画にはヒトラー微塵も出てこない。作戦指示がヒトラーから出たというセリフはあるが。邦題のことを最近ちょこちょこ気になって書いているが「ヒトラーの贋札」というよりも「ナチスの贋札」の方が内容には近い。だが、”ヒトラー”と入れたほうがタイトルの持つ注目度は上がる。まあそういうことであろう。

☆映画批評 by lacroix