『007/カジノ・ロワイヤル』 

●のっけから唖然とする程凄い。人間同士が走って逃げ、追いかける凄まじい追跡劇。カーチェイスの名場面というのは数々あるが、人間同士の追跡劇でこれほどのものはかってあっただろうか? 逃げる方の黒人の身のこなしの凄さ。それを追うボンドの強靱さ。これがかなり長く続く。だが長さは感じない。これだけ凄い肉弾追跡アクションを、しかもたっぷりと見せられるのだ、もう始まって直ぐに映画の世界に引きずり込まれてしまう。巧い!最初から巧すぎ!しかもカメラワークも相当に豪勢。たっぷり数台のカメラを回し、贅沢なショットがもう満載という状態だ。

●脚本にポール・ハギス(『ミリオンダラー・ベイビー』『クラッシュ』『告発のとき』)が参加していると聞けば、なるほど、やはり巧いな!とストーリーの緻密さに納得がいく。

●MGMとしてもほぼ今となっては唯一のドル箱である007シリーズ。流石に金の掛け方が違う。全てのシーンが豪華であり、緻密であり、贅沢なカットの連続だ。こんな絵ばかりで映画全体を作れるなんてもう豪華絢爛、贅沢の極み、憧れ、嫉みも出てしまう。

●作品として『女王陛下の007』のジョージ・レイゼンビューになんとなく似たものを感じる。役者が似ているとかではなく、それほど美形ではないボンドがスマートさだけではなく、もう少し男臭く、ドロっとした部分も見せながら話しが進んでいく所がそう感じる。

●ボンドが愛した女性が最後に死んでしまうというのも『女王陛下の007』と繋がる部分。これまでボンドの相方の女性が死ぬのは『女王陛下の007』一作しかなかったのだから。

●今回、ヴェスパー役をしたエヴァ・グリーンも今まで言われるボンドガールというのとは趣が異なる。これまでのボンド・ガールのようにグラマラスでセックスアピールを強調するようなキャラではない。今回のヴェスパーはストーリー上の真に重要な役で、男を刺激する役目は比重が軽い。これも今までのシリーズとは異なる部分だ。

●オリジナルの「カジノロワイヤル」の不評(というか異色のギャグ物?)という評価をすっかりひっくり返し、キチンとした007シリーズの一作に復帰させた作品だともいえる。こうなるとオリジナルはスピンアウトしたコメディーだという位置づけになるだろう。(笑)

●最後に明かされるヴェスパーの悲しみ、苦悩・・・・事前にしくまれた小さな話しがその悲しみのボルテージを急激に加速する。心にドスンと突き刺さる。

●ラストは・・・・秀逸!