『うた魂(たま)♪』 

●なんだか評判がいいようなので、期待して観た。夏帆「天然コケッコー」で今一つな感じだったのでどうかな? と思っていたのだが、PR用のビジュアルで天真爛漫に両手を広げて謳っている様は「あれ、こっちのほうが似合ってるなぁ。超健康的。なんだかこの夏帆は面白そう」と思わせてくれる。

●正直、前半ほぼ一時間は怠かった。最初はいくら美形とは言え、夏帆のドアップがこれでもかこれでもかとスクリーンに映しだされ少々うんざり。半口開けて天然のボケ顔を異常なほどアップで撮っている。いくら奇麗な顔でも大スクリーンにイッパイで目の前に繰り返し出されたんじゃちょっと引く。

●前半のいろいろなストーリーが伏線になって後半に生きてくるというのが普通だろうが、あまり伏線になっているとも思えない。いじわるをする3人組も居ても居なくてもいいってかんじか? 話しを膨らませるというよりも余計なものを付け足している感じでエピソードがバラついている感すらある。

●最初から殆ど漫画のコマ割をそのまんま映像にしたようなギャグが連続、好きな彼に「君の歌ってる顔は鮭の産卵してるときみたいだ」と言われるのは大事なエピソードであろうが、恋愛話しはメインストリームには無い。メインストリームはやはり合唱である。湯の川学院高校のヤンキー合唱団が出てきた時点で話しの中心はすべてヤンキー合唱団との絡みに移ってしまう。

●話しがググっと良くなってくるのは湯の川学院高校のヤンキー合唱団が出てから、そして尾崎豊の唄が出てきてからだ。このヤンキー合唱団の設定は実に巧い。拍手を送りたいアイディアだ。

尾崎豊の曲は劇中で歌われていても心の中で口ずさんでしまうくらい、やはりいい詩だ。

●後半一気に輝きを増すストーリーはドキドキ物。兎に角ヤンキー合唱団との絡みは面白い。番長にもっともらしい人生の説教をされるシーン。服装と髪型がダメとコンクール出場をキャンセルさせられそうになったヤンキー合唱団に怒鳴り込んでいく夏帆はなかなかイイ。この辺からちょっと泣けてくる。

●ゴリもいい味だしてる。ちょっと見、なんだかおかしいんじゃないの?と思われるキャスティングだったが、話しに非常にマッチしていた。

●番長が改心し合唱にのめりこむストーリーでのマリアの存在はちょっとわざとらしいか。だが、オー・マイ・リトルガールと歌う部分は良かった。

尾崎豊の詩があってこの映画は非常に生きてきたと言えるだろうな。

●ヤンキー合唱団の合唱は相当に練習したのであろうけど、やっぱり上手いとは言えないか。(あんまり上手すぎると変かもしれないが)

●ラストは「ん、高校時代ってなんだかこういうことあったよな」と思える話しで、キラキラと輝いていた。このそう、こんな感動が昔はあったよなと思い出させてくれる素敵なラストだった。

●この映画はどちらかと言えば、同年代の女の子や若い層よりも、少し歳を取ったミドルに響く部分があるだろう。青春まっただ中のあの高校時代の、なんだかすっぱいだけど透明で青空のように爽やかだったあの頃を思い出す。そんな感じの映画だ。

●女子高生や女の子だけのグループの映画というのは「スイングガール」から始まり「リンダリンダ」「シムソンズ」などと最近割と多いが、ヒットの方程式の一つになっているかな。

●それにしてもこの映画に出てくる合唱部の女の子たちはホントに若さを弾け飛ばしているようで爽やかで眩しくもある

●だらだらとせず、ラストの感動のピークでスッと幕を下ろすエンディングも非常に良し。

●前半があまりに怠く、なんだか少女漫画チックで、もうダメかなと思うほどであったが、耐えて後半に入ったら、前半の気怠さは吹き飛んだ。前半をもっと切ってもっとスッキリさせて90分で仕上げたほうがもっとよかったかもしれない。

●夏の雰囲気いっぱいの映画だから4月のこの時期の公開というのはちょっとずれているが、本来なら初夏の頃にでも公開すればもっと雰囲気は上がったであろう。

●追っかけのTVCMも驚くほど流れているが、これは拾いものとも言える爽やかな佳作である。


◎まさか日活がこういった映画を作れるとは思っていなかった。社内のゴタゴタ、買収騒動を経て、インデックスのグループになり、これまでの旧態依然とした体質が変わったのだろう。そういう古い体質をもった人が抜けて、新しい普通の人が入ってきたのであろう。いままでの日活なら、日活の会社としての文化ならこういう作品は作れなかったし、作っていなかったと思う。今後の日活には少し期待が持てるかもしれない。

★映画批評by Lacroix