『大いなる休暇』

●原題は”LA GRANDE SEDUCTION/SEDUCING DOCTOR LEWIS” 邦題の”休暇”ではなく”誘惑、そそのかし”などの意。確かに作品内容は”休暇”ではない、全く違う。”嘘、そそのかし”である。 仏語の"LA GRANDE" 英語の”THE GRAND"には大きなとか雄大、壮大なという意もあるが、少し意訳すると”素敵な”とか”素晴らしい”とかの大きさを表すだけではない修辞の意味もある。となると仏語の原題は”素敵な誘惑”なんて意味に取っても良いかもしれない。英語の原題の方は”ルイス先生をそそのかす”とでもなるか? これはイマイチだ。

●ジャケットの写真や、ジャケットに書かれた「スローライフも夢じゃない」なんて言葉から、何故かブローディガンの「アメリカの鱒釣り」の様な作品かと想像したが、それは外れた。

●映画を売ろうがために邦題を内容にはまるでそぐわない”休暇”とし、いかにも都会のOLなどに受けそうな癒し系の作品をイメージさせようとした”売り方”はあざとくて余り好きにはなれない。正直この作品PRは全くの嘘だらけだ。もう少し真面目に作品の中身を正直にPRしたら?と言いたくなるが、このまったり感、ゆったり感が作用して騙しの宣伝が、思いもかけず上手くいってしまったようだ。

●そういう嘘だらけのPRに釣られて映画を観てしまうと「騙された、ふざけるな」と思ってしまうのが常だろうが、この映画の場合は、内容がおっとりしていて、そんなに悪い作品でもないから、作品宣伝は嘘っぱちでそこに騙されて観たのだけれど、腹立たしさは残らなかった。まあこれなら許してやるよという気持ち。

●ストーリーは至極平凡。昔からよくあるような、よく作られてきたような話である。けれど、いかにも僻地という感じのどこかの漁村の島とそこに暮らす人たちの素朴さが画面に良く出ている。作品に棘が全然無い。ほのぼのとした作品である。

●騙すほうの純朴さ、騙されるほうの純朴さ、悪意は無いそそのかしに村人全体が協力してわいわいがやがやと動き回る。騙されるほうも全然気が付かない。まあこういう話も一種のファンタジーなのだな。

●日本も世界も、国を動かす都市部は裕福であっても、ちょっとそこから離れれば働き口もなく、生活もギリギリという状況が広がっているのだ、同じような状況なのだなと少し考えさせられる。暴走した資本主義が生み出した格差は世界中に拡散してしまったのだろう。

●こういう作品を癒し系だとかと、直ぐあちこちで言うようだが、それほどまでに癒されなければならぬほど心は荒んで、毛羽立ち、ぎすぎすしているのだろうか?そこに耐えているのだろうか?確かにほのぼのとした気持ちにさせられる作品ではあるが、こういった映画に癒されなければならぬほど乾き、荒んだ日常ならば、そんなの捨ててしまえ、抜け出してしまえと言いたくなるのだけれど。

●特にどうとか言うような作品ではない。ごくごく普通の作品、よくあるような標準的な作品だ。だが、ハリウッド的押し売りエンターテイメントばかりを見せ付けられいると、こういう作品が良いと思えるのだろう。そんな状況は、あるべき正しき姿ではないのだが。